第94話 妹の特殊能力
俺と水菜が雨宿りをしていた公園に傘をさしてやってきたのは先ほどまで俺の部屋のベッドで寝込んでいたはずの結衣だ。
風邪をひいてさっきまで寝込んでいたというのにこんなところで何やってんだ、という俺の疑問、というよりは怒りの感情は結衣がこの場にやってきたことに対する驚きでかき消された。
「え、なんで結衣がこんなところに⁉︎ 俺の家で寝てたはずだろ⁉︎」
「あー、いや、えっと、なんて言えばいいのか分かんないんだけど……」
「なんだよそれ……。普通風邪をひいて寝込んでた奴が大雨の中いくら傘さしてるとはいえこんなとこに来るなんてあり得ないだろ。史織は止めなかったのか?」
「あはは……。むしろ榊くんたちを追いかけることを後押しされたよ」
「誰がそんなバカなこと……。いや、史織ならやりかねんな」
「とりあえず二人とも、傘持ってないでしょ? 傘持ってきてるからとりあえず帰ろ?」
結衣は史織に言われて俺たちの分の傘を持ってきてくれているようだ。雨を避けて帰れるのは嬉しいが、正直今はもう雨に濡れることなんてどうでもいいくらいに結衣がここにいる状況が理解できなくて混乱しているし、どうにかしなければならないと思っている。
「そ、そりゃそうだけど先に話をしないと気が休まらないんだが……」
「でも榊くんびしょ濡れだけど?」
「……」
一度冷静になって自分の状況を整理してみると、今の状況を深く理解してしまったのか体の震えが酷くなってきた。目の前にいる水菜に集中して寒さという感覚を忘れてしまっていたようだ。
俺はあまりの寒さに結衣の話を聞くよりも先に家に帰ることを決めた。
◇◆
「おかえりっ。寒かったでしょ」
俺の家に到着し、玄関の扉を開けると史織が微笑みながらタオルを持って待っていた。
「いや、なんで俺がびしょ濡れになってること知ってんだよ」
「だって雨降ってるし」
「雨降ってるからって濡れてるとは限らないだろ? 雨宿りしてたらそんなにびしょ濡れになんねぇだろうし」
「いや、史桜くんなら間違いなくびしょ濡れになってでも走り回って水菜のこと探してるだろうなと思って。なんとかして濡れないようにすることも出来るだろうけど、そんな器用さ史桜君にはないからね」
俺のことをどこまでも知り尽くしている史織の姿を見ると、もう俺は史織と結婚した方がいいんじゃないだろうかとすら思ってしまう。
これだけ俺のことを知り尽くしてくれているなら、俺も一緒にいて気楽で楽しいだろうしな。
まぁ妹だから無理だけどさ。
「不器用で悪かったな」
「そんな不器用なところも愛嬌があって可愛いと思うよ。とりあえずお風呂入ってきたら? お湯は張ってあるから」
水菜を探しながら雨に打たれてびしょびしょになって体が冷え切っていた時、家に帰ったら温かい風呂に入って暖まりいた思っていた俺の心まで完全に理解している史織に恐怖心すら覚える。
さすが兄妹。でも普通の兄妹って多分ここまで以心伝心してないよね? 史織って本当に何も特殊能力とか持ってないの?
「ありがと。お言葉に甘えて入らせてもらうよ。水菜、結衣、ちょっと待っててくれ」
そう言ってコクリと頷いた二人を見て、俺は風呂へと向かった。
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