第89話 塗り重ねる嘘
結衣を無理やり自分の部屋へと押し戻した俺は部屋の扉を閉める。
そして先程みんなの前で話しを合わせてくれた事についてお礼をした。
「ありがと。訳分かんなかっただろうけど話し合わせてくれて助かったよ」
「最初はちょっとだけ動揺したんだけどね。気づけてよかったよ。みんなの話を聞いてて、多分榊くんは私の体調が悪かったから自分の家に連れてきたって言ってくれたんだろうなって思ったから」
やはり結衣は見事に俺の考えを考えを見抜いて話を合わせてくれていたようだ。話しを合わせてくれた事はありがたいし、みんなに俺の家に来た理由を気づかれずに済んで助かったのだが、俺の頭の中には一つの疑問が浮かんでいた。
俺の考えを見抜いてくれていたのだとしたら、なぜお姫様抱っこの話をしていた時、結衣は狼狽えるような反応をしたのだろうか。
「理解してくれて助かったよ……。それでさっきのお姫様抱っこの話なんだけど……」
「ほ、本当にごめん‼︎ 水菜ちゃんって可愛い彼女さんがいる榊くんにまさか私、お姫様だっこさせるなんて……」
--ん? なぜ結衣は俺にお姫様抱っこされたと信じ込んでいるんだ?
結衣は俺の家まで自分の足で歩いてきているので、俺にお姫様抱っこされた記憶などないあるはずがない。
「え、ちょっと待って……」
「ごめん‼︎ 過ぎてしまった事だし私にはもうただただ謝罪するしかないの‼︎」
「べ、別に謝罪とかって話じゃ……」
「本当にごめん‼︎あ 何度謝っても足りないのは分かってるけど、水菜ちゃんには後日私からも釈明しておくから‼︎」
「落ち着け、そうじゃなくてさ。結衣、俺が学校サボるかって提案してからどうやって俺の家まで来たか覚えてるよな?」
「お、お姫様抱っこ……だよね? ごめん……。私、相当体調が悪かったみたいで榊くんと学校をサボる話をしてから気が抜けちゃったみたいで、記憶が曖昧なんだ」
なるほど、そういう事か。
皆勤賞の結衣が俺の学校をサボろうという提案をすんなり受け入れるくらいなので、かなり意識は朦朧としていたのだろうが、まさか記憶が曖昧になってしまうほどに体調を崩していたとは思いもしなかった。
結衣の記憶がないのなら、もうお姫様抱っこをした事は本当だと結衣に言ってしまった方が学校をサボった理由をみんな気付かれる可能性は低下するのではないだろうか。
いや、でもそれだと俺はまた嘘をつくことに……。
「そ、そっか。相当体調悪かったんだな。もうちょっと休んどけよ。みんなには帰ってもらうからさ」
一度は嘘をつく事を躊躇ったが、お姫様抱っこをして結衣を家まで運んだと嘘をついたことが結衣にバレるのが嫌で俺は嘘を突き通してしまった。
とはいえ、この選択を間違っているとは思わない。
「ありがと……。申し訳ないんだけど、水菜ちゃんに私がごめんって言ってたって伝えておいてくれないかな?」
「分かった。伝えとくよ」
そして俺は結衣をベッドに寝かせてから再度リビングへと降りて行き、結衣が寝ている事を理由にみんなに俺の家から帰るように促した。
しかし、水菜には結衣に謝罪の意がある事を伝えてほしいとお願いされたので、水菜だけは史織に用事があることにして俺の家に残ってもらうことにした。
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