第87話 自覚
先ほどまで結衣の寝息しか聞こえてこず、静まりかえっていた俺の家のリビングにはいつものメンバーが集まっていた。
結衣が風邪で寝込んでいるという話を聞きつけたからといって、みんながみんな心配してこうしてお見舞いにくるなんてあり得るのだろうか。
自宅に帰る途中にわざわざ俺の家まで来るのは遠回りで面倒くさいと思う人がいてもおかしくないというのに、全員がこぞって俺の家にやってくるのだから心の底から結衣の事を心配しているということなのだろう。
思いやりのある友人たちに感心しながら、俺は心の片隅で罪悪感を抱えていた。
確かに結衣は体調を崩しているので俺が言ったことは嘘ではないのだが、通学路で結衣と衝突した時は結衣が体調を崩している事に気がついていなかった。
何か悩んでいるような素振りを見せてはいたがそれも確信ではなかったし、結衣のためと言っておきながら俺は自分が結衣と二人で話がしたかっただけなのかもしれない。
「ゆいゆい、休みボケで体調崩しちゃったのかな?」
「結衣がそんなタイプじゃないってのは知ってるでしょうが」
梨沙にそう言われた茜は、確かに、と首を縦に振った。
結衣は優等生で成績も良く、健康管理も欠かしておらず学校はこれまで休んだことがない。
そんな結衣が季節の変わり目というだけで風邪を引くとは考えづらい。
そう考えていくと、結衣が学校を休んだ原因は他にあるのではないかと疑われてしまう可能性もある。
「じゃあ何で体調崩しちゃったんだろうね」
「まぁこの時期は風邪も流行り出す時期だしな」
「それもそうだね」
俺はなんとか結衣が風邪をひいて学校を休んだ方向へと話を進める。
そうしておくことで、結衣が学校を休んだ本当の理由に気がつくことが無くなると考えたからだ。
「史桜くん、どうやって結衣さんをここまで運んだの?」
「そ、そりゃもうどうしようもなかったからお姫様抱っこ的なあれだよ」
おい俺、息を吐くように嘘をつくのはいいが嘘のつき方が下手すぎるだろ。
別におんぶとでもなんとでも言っておけばよかったじゃないか。
それに結衣は普通にここまで一緒に歩いてきてるからな。後で結衣と口裏合わせとかねぇと大変なことになりそうだ。
「史桜……お姫様抱っこするなら結衣ちゃんじゃなくて水菜ちゃんにしとけよ……。真野が嫉妬してるじゃねぇか」
「べ、別に嫉妬なんてしてませんよ⁉︎」
「じゃあまた史桜が真野以外の女の子をお姫様抱っこしてもいいのか?」
「そ、それは……」
「はい‼︎ 現行犯逮捕‼︎」
俺が他の女の子をお姫様抱っこしてるところを想像して嫉妬する水菜可愛すぎるだろ。
まぁ確かに水菜が誰か他の男にお姫様抱っこをされているところを想像すると何故か無性に腹が立つな……。
水菜に嫉妬するということは俺はやはり水菜が好きなのだと自覚しながらも、なぜ結衣のことが頭の片隅から離れてくれないのか、疑問に思いながらしばらくリビングで行われていた会話を楽しんでいた。
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