第84話 誰もいない家

 なんのアテも無いのに咄嗟に結衣に「学校サボるか?」と訊いておきながら、その言葉を口にして直ぐに俺は後悔した。

 水菜に学校をサボると伝えれば水菜は怒るだろうし、結衣と二人で学校をサボるとなれば言語道断だろう。


 後悔先に立たずとはよく言ったもんだぜ……。


 とはいえ、優等生の結衣ならサボりの誘いなど受けるはずがない。俺の誘いは断られるはずだ。断ってくれ。お願いです断って下さい。


「確かに、今日は午前中で学校終わる予定だし休んでもいいかも」


 いや断らんのかーい。


 勉強もできて先生からの信頼も厚い結衣なら俺の誘いを断ると考えていたのだが、結衣は意外にもあっさりと俺の発言を鵜呑みにしたのだ。


 あまり記憶にはないが下手すると結衣は皆勤賞なんじゃないか?


 そんな結衣がまさか学校をサボろうという提案に乗ってくるとは……。その提案に乗ってしまうほど思い詰めているということなのだろう。

 何か悩みがあるのであれば、良き友人としてその悩み話解決することに尽力しなければならない。


「結衣がそんなこと言うなんて珍しいな。本当にサボっていいのか? 俺はこれが初めてって訳じゃないし構わんが」


「たまには息抜きも必要かなと思ってね。初めてのサボりは榊くんに捧げようかな」


 おい結衣、言い方、言い方。


 その言い方はなんかちょっと悪意あるぞ。悪意ないんだとしたらその天然は直した方が身のためですよ。


「それなら今日はサボりますか」


 こうして俺と結衣は冬休み明け初日の学校をサボる事に決め、学校とは逆方向に歩き始めた。




 ◇◆




 恐らくこれが最善の答えだと思っていたのに、今となっては最悪の考えだったのではないかと俺は後悔の色を隠せずにいた。


 学校と反対方向に歩き始めてからどこに行くか結衣と相談したのだが、結局何も決まらず俺たちは学校付近を彷徨っていた。

 行くアテも無いので結局俺は結衣を連れて俺の家へとやってきてしまったのだ。


 冬休み明け初日とはいえ、制服を着た学生が街中をうろついて警察に見つかってしまえば補導される可能性もある。それは避けるべきだと考えて自宅までやってきた。


 どこに行くかということばかりを考えていたら、俺の家に行ったら自宅で結衣と二人きりになるという事をすっかり忘れてしまっていた。


 今日は親もいないし結衣を連れて帰っても大丈夫だな、なんて甘い考えを抱いていた数十分前の自分を殴りたい。むしろ親いない方がやばかったわ。


 彼女に内緒で元カノを自宅に呼ぶとか芸能ニュースとかでよく聞く内容じゃねぇか。


「いやー、家に親がいなくて良かったわ」


「確かに。榊くんの家に両親がいたら行くアテが無くなってたね」


 よく考えてみれば結衣と二人きりという状況は久しぶりで、結衣との会話が上手くできなくて悩んでいた。

 会話の内容も見当たらないので親がいなくて良かったとか言ってるけど全然良くないからな。


「本当によかったのか? 学校サボって」


「別にいいよ一日くらい。誰だってたまには体調崩す事くらいあるでしょ?」


「それはまぁそうだが……」


「それに、丁度榊くんと二人で話がしたいと思ってたんだ」


「……話?」


 結衣が俺に話したいことがあると聞いて思わず俺は身体中に力を入れて身構えてしまった。

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