第83話 始まりは突然
学生の特権である冬休みが終わり、憂鬱な三学期初日。
朝目を覚ますと形容し難い怠さが俺を襲う。
長期連休なのをいい事に、毎日のように日付を跨いで夜更かしを続けていたせいで俺の体は完全に鈍ってしまっているようだ。
重たい体をなんとか起こしてリビングへと降りていくとすでに家の中に史織の姿はない。
史織は冬休み明け初日から日直が当たっているらしく、家を早く出た。史織は意外と運が悪いんだよな。
俺はいつも学校に間に合うかどうかギリギリのタイミングで家を出ている。
とは言っても必ず授業が始まる五分程前には着席しているので遅刻はしていないのだが、そんなギリギリは嫌だ、と言われてしまい史織と一緒に通学をする事はない。お兄ちゃんは可愛い可愛い妹と一緒に通学したいというのに……。
今日も学校には授業が始まるの五分程前に到着する予定で家を出て、学校到着まで残り十分。
今日も遅刻をせずに済みそうだ、なんてことを考えているが、それならもっと早く家を出ろって話だわな。
そう言われたとしても、俺は絶対に学校に行くのを早めたりはしない。五分早く家を出ればもっと余裕で到着するのに、と思う人もいるだろうが、その五分がその日一日のコンディションを決めると言っても過言ではない。
始業の五分前ともなれば走って学校を目指す生徒も多いが、毎日の様にこのギリギリの時間帯に登校してくるメンバー常連の俺は今日も優雅に焦ることなく登校していた。
「うぉっ⁉︎」
「きゃっ‼︎」
俺は優雅にスマホを弄りながら登校していたのだが、曲がり角から急に飛び出してきた人物と衝突してしまった。
「「す、すいません‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」」
俺自身怪我はなく、自分よりもぶつかってしまった相手に怪我はないかと慌てて声をかけると、相手も全く同じ文言で俺の身体を気遣ってきた。
全く同じ文言を言ってきた衝突相手の気遣いに関心しながら、俺は咄嗟に目の前で尻餅をついてしまったその人物に手を差し伸べた。
手を差し伸べた後で、その人物の顔を見て俺は驚愕する。
「ゆ、結衣⁉︎」
「え、史桜くん⁉︎」
俺が衝突してしまった人物は俺がよく知る人物。その中でも最も関係が深い元カノの結衣だったのだ。
急な出来事で俺もかなり焦っているので結衣が焦ってしまう気持ちもわかるが、結衣はこういう咄嗟に俺の名前を呼ぶ時、クセなのか必ず「史桜」と名前で呼ぶ。好きとかじゃないけど、急に名前で呼ばれるとドキッとするからやめてね? いや寧ろ呼んでほしいか。
「結衣か……びっくりしたわ。いや、結衣も驚いたよな。すまん。スマホ見て歩いてたわ」
「いや、私の方こそごめん。遅刻しそうで急いでたから……」
「珍しいな。結衣がこんな遅い時間に来るなんて」
「ちょっとね……。なんか最近寝付けなくて」
結衣はいつも授業が始まる三十分程前には席についている。そんな結衣が俺と同じ時間に登校してくる事に違和感を感じた。
「長期連休だったのに寝付けなかったのか。なんか悩みでもあんのか?」
「な、悩みなんてないよ。全然大丈夫だから。心配してくれてありがとね」
悩みなんてないと言い張る飯崎だが、飯崎の目の下にくっきりと出来上がった真っ黒な大きなクマがただ事ではない事態が起きていることを知らせてくれていた。
理由は分からないが、連休明けだと言うのにこれ程までに体調が悪そうな結衣を、俺は放っておくことが出来なかった。
「そっか……。とりあえず学校サボるか?」
俺はなんの計画もなしに、思いついた言葉を発した。
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