第81話 プレゼントの行方

 クリスマスパーティの翌日、俺は水菜を家に呼んでリビングで史織を含めた三人で会話をしていた。

 

 水菜が俺の家にやってきてからしばらくは誰も会話を始めないという状況が続いていたが、その沈黙を切り裂いたのは水菜だった。


「史桜はクリスマスパーティのプレゼント交換、誰からのプレゼントを貰ったんですか?」


 ついに来てしまったか。恐れに恐れていたこの質問が。


 俺は昨日クリスマスパーティが終わってからこの質問をどう乗り切るべきか頭を悩ませていた。

 結局どれだけ悩んでも良い案は思い浮かばず、とりあえず水菜からの質問は適当に受け流すことに決めた。


「あーそれな、結構いいプレゼントだったよ」


「そのはぐらかし方、もう誰からプレゼントもらったのか明らかなんですけど?」


「史織ぃぃぃぃ‼︎ 水菜がお兄ちゃんをイジメるよぉぉぉぉ‼︎ お兄ちゃんを助けてくれぇぇぇぇ」


「史桜くんなんてもう助ける価値もありません」


 いつもは俺の味方をしてくれる史織も、俺の情けない姿をクリスマスパーティで目にしているだけに今は俺のことを庇うつもりも慰めるつもりもないようだ。


 史織は俺に冷たい目線を送っているが、プレゼント交換では誰のプレゼントを貰うかを選ぶことはできないので、結衣のプレゼントを貰ってしまった俺に非はないはず。

 プレゼント交換は誰のプレゼントを貰うか最後まで分からないところが醍醐味なのだし、誰のプレゼントを受け取りたい、と指定できてしまうとプレゼント交換自体の魅力が著しく低下してしまう。


 要するに、今回俺が結衣のプレゼントを受け取ってしまい、結衣が俺のプレゼントを受け取ることになったのは間違いなく偶然であり、神様のいたずらだとしか考えられない。


「史織まで俺を見捨てるのか……」


「見捨てるというか、見限る?」


「うわ、なんかその表現の方が地味にショックだな」


「で、結局史桜は結衣先輩のプレゼントを受け取ったってことでよかったですか?」


「その通りです」


 俺が水菜の質問に対して細かく首を縦に何度も振ると、水菜はムッとした表情を見せた。

 水菜が嫌な思いをしているのは本意ではないが、水菜の表情から、嫉妬をしてくれていることは明らかであり、俺的には嬉しくもあった。


「ま、まぁ偶然ですしそういう事もありますよね。それで、史桜のプレゼントは誰が受け取ったんですか? まさか結衣先輩だなんて言いませんよね?」


「そのまさかでございます」


「マジですか?」


「マジです」


 水菜は心底呆れた雰囲気で顔を手で覆い隠す。最悪の事態が発生してしまったことに呆れるのは分かるが、俺だって結衣のプレゼントを受け取らなくていいならそうしたかったし、俺のプレゼントを結衣以外の手に渡せるのであればそうしたかった。


「ごめん水菜……。流石の私でもこの状況を回避するのは無理だった……」


「史織は悪くないよ‼︎ 悪いのは全部史桜だから。史織はいつも私のことを想って私のために行動してくれる、最高の友達だよ」


「史織は確かに悪くないんだけど、俺も悪くなくね? プレゼント交換なんか運要素百パーセントなんだからインチキでもしないと回避しようがなくね?」


 そういうと、史織と水菜の二人からキッと睨まれて俺は部屋の隅で体育座りで小さく丸まった。群れた女の子、怖い。


「史桜くん、しばらく黙ってて?」


「はい、ごめんなさい」


「それで、結衣先輩からは何を貰ったんですか?」


「……これです」


「それ、学校で使ったら怒りますからね?」


「……はい」


 結衣が俺が貰ったペンを使っていないと知ればどんな反応を見せるだろうか……。


 そんなことを思いながらも、水菜を悲しませないためにはそうするしかないと腹を括るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る