第80話 嬉しくないプレゼント
ご察しの通り、と言えばいいのだろうか。
プレゼント交換は順調に進み、俺は結衣のプレゼントを引き当てた。というか、もう結衣のプレゼントしか残ってなかった。
ジャンケンに勝った人から一人ずつプレゼントを選んでいったのだが、俺はみんながプレゼントを選んでいる間、誰か結衣のプレゼントを引け、早く結衣のプレゼントを引け、と念じ続けていたのだが、結局最後まで結衣のプレゼントが黒い袋の中から取り出されることがなかった。
最後まで結衣のプレゼントが残っていた、とは言ったが、実際は結衣のプレゼントだけが残っていた訳ではない。
俺の前にプレゼントを引く予定だったのが結衣だったのだが、なんの因果か、みんなのプレゼントを入れた黒い袋の中には結衣がプレゼントを選ぶ段階で俺のプレゼントと結衣のプレゼントしか残っておらず、結衣はプレゼントを引く前に俺のプレゼントを手に入れることになった。
まぁ変に壮が選んだプレゼントとか貰うよりはそりゃ可愛い女の子が選んだプレゼントを貰った方が嬉しいけどさ。結衣のプレゼントを手に入れたことは素直に喜べないな……。
水菜にはプレゼント交換で誰のプレゼントを貰ったか間違いなく問い詰められるだろうし、そうなれば、壮のプレゼントを貰った、と嘘をつく訳にもいかない。
これはもう正直に報告するしかないな。俺に非は無いし、水菜も許してくれるだろう。
「まさか私が史桜くんのプレゼントで、史桜何が私が選んだプレゼントになるなんて思わなかったね」
結衣は俺の耳元で小さい声で呟き、ニコニコと微笑んでいる。
こっちの気も知らないで……、と呆れそうになるが、そのフフっと小さく微笑む表情を見ているとそんな事を思う気にもならなかった。
結衣は俺と付き合っていた時のことを綺麗サッパリ忘れて全く気にしていないような素振りを見せたりもしているが、こうして天使のような微笑みを見せる時もある。
好きでもない男にこんな表情を見せるだろうか。結衣は俺のことをどう思っているのだろうか。そんな疑問を持つのは元カレとして仕方がないことだろう。
結衣の言葉に、そうだな、と一言小さく返して俺は結衣のプレゼントを開けた。
すると、そこには普段学校では使わなさそうな、高級そうなペンが入っていた。
普通なら学校でも家で使えるペンを貰えたとなれば嬉しいはずなのだが、そんな感情は全く芽生えず、俺はそのプレゼントを見てただ唖然としていた。
唖然としたまま結衣の方を見ると、結衣も俺と同じく唖然とした表情をしている。
俺が選んだプレゼントもペンだったのだ。
どうせ選んだプレゼントが誰かの手に渡るなら、プレゼントを受け取った人には喜んでほしいと思った俺は一週間程悩み続けた。
その結果、学生同士のプレゼント交換なら学生が普段よく使うものがいいだろうと考えペンを用意したのだが、それが仇となった。
ペンをプレゼントで貰ったとなればそのプレゼントを学校で使わない訳にはいかない。
その上、結衣の手に渡ったプレゼントがペンとなれば、結衣も学校でペンを使わない訳にはいかないだろう。
同じ教室で同じ授業を受けている時に、プレゼントし合ったペンを使う。これはもうカップルがする行為でしかない。
みんなが受け取ったプレゼントについてああだこうだ言い合いをしながら賑わいを見せ始めたクリスマスパーティだが、俺は結衣からもらったプレゼントをどのように扱うか、頭を悩ませていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます