第79話 ジャン負け

 プレゼント交換には様々な方法があるが、俺たちは各自が持ち寄ったプレゼントを真っ黒な袋に詰め込み、ジャンケンで勝った人からその黒い袋に手を突っ込んでプレゼントを選ぶというルールで行う事になった。


 一番最初にプレゼントを選ぶことが出来れば誰が準備したプレゼントでもゲットする可能性がある。


 とはいえ、ジャンケンで勝っても結局は中身の見えない袋から手探りでプレゼントを取り出すので、誰が準備したプレゼントを手にする事になるかは全く分からず、ジャンケンの勝ち負けが重要とはいえない。

 

 とはいえ、俺が狙っているプレゼントを引き当てるためには、一番最初にプレゼントを選ぶ方が可能性は高そうだ。


 俺の狙っているプレゼントは史織か壮が準備したプレゼントだ。


 仮に俺が壮と史織以外の女性陣誰かが準備したプレゼントを引き当てたとしよう。そしてそのプレゼントがハンカチだったとする。

 俺はそのハンカチを水菜の前で堂々と使う勇気はない。 


 しかし、そのハンカチが史織か壮が準備したプレゼントだったら話は別だ。水菜の前でも堂々とそのハンカチで手を拭くことが出来る。


 すまん梨沙、俺はお前の彼氏が準備したプレゼントを狙うぜ。

 すまんみんな、俺は天使である史織が準備したプレゼントも狙うぜ‼︎


 プレゼント交換を始める前に尿意をもよおした俺はトイレに行っており、トイレから自分の部屋に戻ってきてプレゼント交換が始まった。


「よし、じゃあ俺はチョキを出すかな」


「お、能無し史桜のくせに中々の駆け引きじゃないか」


「これは戦争だからな。中身が見えないとはいえ、やっぱり一番にプレゼントを選びたいもんだろ」


「そうはさせないぜ」


 女性陣はともかく、俺と壮の間では激しく火花が散っている。

 気合の入っているところ申し訳ないが少なくとも俺が一回目のジャンケンで負ける事はない。


 何故なら俺は史織が必ずジャンケンの最初にパーを出す事を知っているからだ。

 ということは、俺がチョキを出せば負ける可能性はとりあえずない。


「それじゃあいくよ‼︎ 最初はグー」


 茜の掛け声で仁義なき戦いが始まった。妹よ、これが社会って奴だよ。今のうちに厳しさを教えておいてやるぜ‼︎ 俺もまだ学生だけど。


「ジャンケンポン‼︎」


 俺は予定通りチョキを繰り出した。


 しかし、俺の目には予想外の光景が広がっている。

 偶然か必然か、俺以外の全員がグーを出しており、俺は一人負けする事になった。


「はい、史桜くんプレゼント選ぶの一番最後ね」


「ちょ、ちょっと待て‼︎ なんで俺以外全員グーなんだよ‼︎ そ、そりゃ偶然そうなる事もあるだろうけどなんで史織までグーを⁉︎」


「史桜くん、私が今まで打ってきた布石に気がつかなかったんだね」


 ……な、なんだと? まさか今まで俺とジャンケンをする時に最初は決まってパーを出していたのはここぞという時のための布石だったとでも言うのか?


「……やられた」


「しおしお、残念だったね。せめてゆいゆいのプレゼントが残ってるといいね」


「……ん? なんで結衣のプレゼントが残ってると良いんだ?」


「えー? なんとなく?」


「なんとなくってなんだよ。もっと明確な答えを頼む」


「んー、感覚だからねー。私にも分かんない」


 茜が何か変な発言をしているのは置いておいて、よもや史織からの奇襲攻撃を受けるとは思っていなかった。まさに飼い犬に噛みつかれた様な状態だな。


 自分でプレゼントを選ぶ事はできなくなったが、一番最初にプレゼントを選ぼうが、一番最後にプレゼントを選ぼうが、中身が見えないのだから一番最後だからといっていいものが残っていない訳ではない。  

 残り物には福があるっていうしな。頼むから結衣のプレゼントが残ってたりはしないでくれよ。


 俺は心を前向きに保ちながら残りのじゃんけんを見守った。

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