第77話 失言
俺の部屋の中で、「メリークリスマス‼︎」という大きな掛け声とともに皆がジュースを注いだグラスを天高く突き上げる。
今日は俺の家でクリスマスパーティが開かれている。壁には折り紙を巻いて作った定番の飾りやお店で買ってきたクリスマス用の装飾が飾られている。キラキラと輝くクリスマスツリーはやはり気分を高揚させる。
クリスマスパーティなるものに参加したことのない俺が今日という日を楽しみにしていたのも事実ではあるが、俺がこのクリスマスパーティーに望むことはただ一つ。
何事もなく無事にこのパーティを終えることだ。
今日この場には水菜がいない。水菜がいないところで水菜以外の女子と何かあろうものなら俺と水菜の恋愛関係は終わってしまうだろう。水菜以外の女子、というかそれは元カノである結衣だけに限定されるけどな。
梨沙には壮という彼女がいるし、茜は誰かを好きなそぶりを見せたことはない。
となれば消去法で残るのは結衣だけになる。まあ消去法じゃなくとも最初から俺が何かあってはいけないのは結衣とだけなんだけど……。
「どうしたのしおしお!! せっかくのクリスマスなのになんか浮かない顔してない?」
「別に浮かない顔なんてしてないだろ」
「いやいや、絶対してるでしょ。あ、分かった--さては昨日みずみずと何かあったな!?」
「ブフォーー!!」
茜から水菜と何かあったのではないかと詰められた俺は思わず口に含んでいた炭酸飲料を吹き出してしまった。
史織といい茜といいなんで俺の周りにいる奴はこうも察しがいいのだろうか。
ってか察しがいいの範囲通り越してるだろこれ。
「その反応はやっぱり何かあったんだねぇ……」
--ん? なにやら茜の反応が薄い。
俺と水菜がキスをしていたことを茶化してくると思っていたが、俺の予想に反して茜は憐れむような眼で俺のことを見ていた。
何だこの反応は。茜だけではなく結衣も梨沙も、俺を憐れむようなめで見ている。
「べ、別になんもねえって」
「大丈夫だよしおしお。わかってるから」
「いやわかってないだろ」
「わかってるって。みずみずと喧嘩したんでしょ?」
……は? 俺と水菜が喧嘩をした? どういうことだ? 俺と水菜は喧嘩をするどころかキスまでして幸せの絶頂期なんだが。
「こら、茜。そんな面と向かって言っちゃダメでしょ。榊くんが可哀想だよ」
結衣まで茜に便乗して一体何を言っているんだ?
……なるほど。俺が浮かないかをしていたもんだから昨日のクリスマスデートで俺と水菜が喧嘩したと思ってるんだな。
ま、まあそれならそれで都合がいい。適当に話を合わせておこう。
「だ、大丈夫だよ。確かに喧嘩しちまったけどもう仲直りしてるから」
「そうなんだ。それで、喧嘩の原因はしおしおなんでしょ?」
「バカ、そう思ってたとしても本人に直接聞くな。榊が可哀想だろ。どうせ榊が水菜ちゃんに手を出さなさ過ぎたとかで喧嘩したんだよ」
おい待て、今の発言は聞き捨てならんな。確かに俺は水菜に手を出せなかったが手を出そうとはしていたぞ。それに結果論だがキスはした。水菜からだけど。水菜からだけど!!
だがまあここは俺も大人の対応だ。適当に流して終わりにしよう。
「い、いいよ別に。場の空気乱して悪かったな」
「そうだよね、しおしおに手をだす勇気なんてないんだから」
「そうだ史桜にそんな勇気はないぞ」
え、なに、俺ってそんなに舐められんの?
「そうだよね、しおしおに男気なんてないもん」
「そうだ。史桜に男気なんてない。皆無だ」
くっそ!! なんだこいつら!! 完全に俺のことを舐めてやがる!!
「キスしたけどな」
「「「「--え?」」」」
俺の一言でその場の空気は一瞬にして凍り付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます