第76話 準備の約束
「ただいまぁーー……」
水菜と遅くまで遊んでいた俺は帰宅の時間が遅くなってしまい小さな声でただいまと言いながら申し訳なさげに玄関の扉を開けた。
というのも、明日は俺の家でクリスマスパーティーが開かれるので、その準備をするために史織には出来るだけ早く帰ると伝えていたからだ。
遅くなったとはいえ時刻はまだ午後九時過ぎ。
俺たちはまだ学生なので遅くまで外出して補導される訳には行かない。水菜と一緒にいる時に補導などされようものなら水菜の両親に何を言われるか分かったもんじゃない。
そんな事情もあって出来るだけ早めに水菜と解散したつもりではあったが、予想していたよりも帰りが遅くなってしまった。
玄関の扉を開けるとニ階から誰かが降りてくる音がきこえてくる。
その足音の主は天使……いや、史織だった。
「おかえり、史桜くん」
史織は何故かサンタのコスプレをしており、俺はその姿に思わず史織を天使か何かかと勘違いしそうになった。
「遅くなってすまん。天使に早く帰るって約束してたのに」
「今天使って言った?」
「言ってない」
俺もこりねぇよなほんと。水菜の時といい今といい、どうしてこうも容易く口を滑らせてしまうのだろうか。
「まぁいいけど。それで、どうだった? 今日のデートは」
史織にそう尋ねられて一番最初に思い出すのはやはり水菜とのあのシーン。
そのシーンを思い浮かべるだけで恥ずかしさが込み上げてしまい顔が熱くなっていくのが分かる。
「ま、まぁまぁだったかな」
「その表情、水菜からキスされたんだ」
「な、ばっ⁉︎ 何言ってんの⁉︎」
なんでだ⁉︎ 何故俺の表情だけで俺が水菜とキスしたってのが分かるんだ⁉︎ 妹、恐るべし。天使だけど。
「あー、やっぱりそうなんだ」
「お、俺は知らん‼︎ てかなんで知ってんだよ⁉︎」
「あ、やっぱりしてるじゃん」
「は、図ったなぁぁぁぁ⁉︎」
俺の妹は兄の取り扱いを熟知しているらしい。史織と会話をしているだけで俺が隠そうとしている情報が次々に流れていってしまう。
「水菜が相談してきてたんだよ。クリスマスで史桜くんとキスしようかどうかって」
「……え? 水菜がそんな話を?」
「うん。だから、史桜くんは自分から手を繋いだり抱きついたりキスしたり出来るほど勇気のある男の子じゃないから自分から行っちゃいなよってアドバイスしてあげたの」
「いやお前のせいかよ‼︎」
水菜が俺にキスをしてきたのは史織のせいもあったらしい。
というかあれだよな、手を繋ごうとか抱きつきたいと思ってた事は俺誰にも言ってないよな? なんで史織はそこ全部良い当てれんの? お兄ちゃんちょっと本格的に怖くなってきたよ?
「良いでしょ、私のおかげで水菜とキスできたんだから」
「ま、まぁそれは……そうだけどな」
「はぁ。妹は寂しいよ。お兄ちゃんがどんどん大人になっていくのがね」
「そんなこと思ってないだろ」
「バレたか。まあ私のおかげでいいこと出来たんだから、今から飾り付けとか色々手伝ってよねー」
「いい事とか変な言い方すんなよなんか変に聞こえるだろ」
兄妹ってのは不思議なもんで、少しの会話で色々な情報を伝達することが出来る。
史織が妹でよかったと思いながら、俺は明日の準備に取り掛かった。
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