第71話 それが嬉しい

「いやー流石に疲れましたね」


「そうだな。まさかこんなに人が多いとは……」


 目的地に到着してからショッピングを楽しもうと思っていた俺たちは、これまで経験したことがない混雑具合に疲労の色を隠せなくなっていた。

 去年のクリスマスはどこにも出かけず、面倒臭かったが店長に頼み込まれたので大忙しのバイトに駆り出されていたので、クリスマスがこれ程までに混雑することを知らなかった。


 今年はバイトメンバーである俺と水菜がクリスマスにバイトに出られないということで店長は泣いていた。頑張れ店長。負けるな店長。


 それにしてもやばすぎだろこれ。自分が天空の城に浮かんでなくても人がゴミに見えるわ。普段の十倍は人が出歩いているように見える。

 クリスマスなので多少出歩く人が多くはなるだろうとは考えていたが、その考えは予想以上に甘かったようだ。


 人混みに押しつぶされながらショッピングをして疲れ切った俺たちは人気のない場所に設置されていたベンチに座り小休憩をとっていた。

 昼過ぎに集合した俺たちは目的地に到着した後、ショッピングなどを楽しみながら時間を潰し、人混みに飲み込まれているうちにもう夕食の時間を迎えている。


「もう疲れたしそろそろ飯でも行くか」


「そうですね。どこで食べます? これだけ出歩いてる人が多いとどこのお店も混んでそうですけど」


「あー、それなんだけど……」


 流石の俺もクリスマスにノープランのデートをする程男が廃っている訳ではない。今日の一番の目的はクリスマスディナーだ。


 何の経験も無かった俺は世の中の男性がクリスマスに彼女に何をしてあげるべきなのか、何も知らなかった。相談できるとしたらあいつしかいない、と俺が白羽の矢を立てたのは友人の壮。

 梨沙という彼女がいる壮ならその辺りも詳しいはず。そう思った俺はすぐさまそうに相談することにした。


 すると、「クリスマスといえばディナーだろ」と言われたので、ネットで検索に検索を重ねレストランを予約したのだ。

 とはいえ、まだ高校生の俺たちがあまりにも格式の高いレストランに行くのは気が引けたため、できるだけフランクな雰囲気のレストランを選んだ。


 俺がレストランを予約したのはクリスマスまで半月を切った頃。もうどこのお店も予約でいっぱいで

、どこの店も予約できないのではないかと心配になったが、2時間ほどスマホと睨めっこをし続けてようやく予約が取れそうないい雰囲気のお店を見つけた。


「一応予約してある店あるから、そこでいいか?」


「--はい‼︎ もちろんオッケーです‼︎」


 水菜は俺が店を予約したと言っただけで満面の笑みを見せ、思い切り喜んでくれた。それだけでも長い時間をかけて店を予約した甲斐があったってもんだ。

 守りたいこの笑顔。ここまで色々あったが結衣にしっかり別れを告げ水菜を選んでよかったと思える瞬間だ。


「美味しいかどうかは知らんけどな」


「美味しいかどうかじゃないですよ。そうやって史桜が私のために色々と考えてくれたことが嬉しいんです。最悪料理が激マズでもそれはそれでいい思い出になりますしね」


 ま、眩しぃぃぃっ‼︎ もう目が開けられないぜ……。


 レストランを予約したことに対する喜びを俺に見せてくれるだけではなく、料理が美味しくないかもしれないという俺の不安まで取り除いてくれる完璧な彼女っぷり。


 本当に水菜は俺なんかと付き合っていていい女の子ではないのではないかと思ってしまう。

 こんなに可愛くて愛おしくい彼女を悲しませる訳にはいかないと心の中で小さく決意しながら、俺と水菜は予約したレストランへと向かった。

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