第70話 普段とは違う服装

 十二月二十四日、クリスマスイブ。


 赤と緑の装飾で彩られた賑わう駅で俺は水菜を待っていた。学校帰りはみんなでティモに集合するのが習慣となっていたため、二人で遊ぶ機会は激減しており今日は水菜と久しぶりの二人きりデートである。

 

 十二月二十五日のクリスマス当日は結局俺の家でクリスマスパーティをすることになった。俺の家なら俺と史織の二人がいるので、部屋の飾り付けや料理の準備などもしやすいだろうということで俺の家が会場となった。

 そんな都合の良いことを言っておきながら、みんな自分の家でパーティをすることになり準備や片づけをするのが面倒くさいのだろう。


 言いだしたのはあいつらの癖に押し付けやがって畜生。


 二十五日に関しては水菜も嫌がっているだろうし正直俺自身あまり乗り気ではない。

 そうはいっても断れなかった自分に原因がある訳だし、今更参加しないという訳にもいかないので明日になったら高熱出てねえかなと学校や面倒くさい行事を風邪で休もうとする学生と全く同じ思考回路になっていた。


 クリスマスパーティ自体は一度も参加したことがないし参加してみたい行事の一つなのだが、水菜のことを考えると心が痛む。明日のことを考えれば考える程憂鬱になっていく。


 とはいえ、今日はまだ二十四日、クリスマスイブである。


 明日のことを考えて暗くなるのはやめて今日は水菜と過ごすクリスマスイブを思いっきり楽しむことにしよう。


「お待たせしました」


 俺の考えがまとまったところで水菜の声がして右方向に顔を向ける。


「いや全然まってな……」


 待ち合わせに遅れてきた女の子に言うべき定型文、全然まってないよ、を言おうとして水菜の声がした方を振り向くとそこにはいつもの水菜とは明らかに違う水菜がいた。


「ど、どうかしました?」


「え、いや、あの……」


「変……ですか?」


 俺が普段の水菜に対して持っている印象は、子供っぽい、だ。


 年齢が一つ下の後輩ということもあるだろうが、童顔低身長となれば後輩でなくとも子供っぽく見えてしまうのも無理はないと思う。


 しかし、今日の水菜には子供っぽさがまったくないのだ。


 服装は普段着ている可愛い寄りのコーデではなく、綺麗系のワンピースコーデ。普段は着用していないグレー系の色をしたストッキングまで着用し、ワインレッドのバッグや主張控えめなイヤリングなど、足の先から頭の先端までおとなっぽさがただよっており思わず言葉をなくしてしまった。


「いや、変じゃない。むしろ……」


「むしろ……?」


 あぶねぇ!! 今自然な流れでめっちゃ綺麗とか言いそうになったわ!! 水菜の姿を見ただけで柄にもないことを言ってしまいそうになるとは思わなかった。破壊力抜群だな。


「な、なんでもない」


「……ふふっ。そうですか」


 ああダメだこれ、今俺がなんて言おうと知ったかしっかり理解してやがる。しっかり理解したうえでしっかり喜んでやがる。どうせ気づかれて恥ずかしい思いをするなら最初から正直にそういえばよかった。


「なんか今日はいつもと全然雰囲気違うな」


「ま、まあそりゃ一応、クリスマスですし」


「クリスマスは服装に気合入れるのか?」


「ま、まあそりゃ一応はそうしないと。今日どこ行くかも全然聞いてなかったですし」


「ふーん。そんなもんか」


「はい。あ、早くしないと電車乗り遅れちゃいますよ!! 行きましょう!!」


 水菜がクリスマスだからといって服装に気合を入れている理由は分からないが、俺と水菜は目的の電車に乗り込んだ。

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