第69話 悩みどころ

 二十五日にクリスマスパーティに誘われるのは喜ばしい事だ。

 特にこれまでの人生でクリスマスパーティなど参加したこともない俺が、プレゼント交換をしたりみんなでケーキを食べたりサンタのコスプレをしたりという賑やかなクリスマスを過ごしてみたいと思うのは必然的である。


 しかし、俺は茜からのその誘いに返答するのを躊躇した。


 二十四日は水菜と一緒に過ごす予定があるが、二十五日は水菜が自宅で家族とクリスマスパーティをする予定なので、その影響で俺も二十五日は自宅でゴロゴロと時間を潰す予定だった。


 何が言いたいかと言うと、俺が誘われたクリスマスパーティに水菜は参加できないのだ。


 ゴロゴロと時間を潰す予定だった訳なので、この誘いをオッケーして参加することは容易である。

 しかし、彼女がいる俺は彼女ではない女の子が大勢いるクリスマスパーティに参加するべきではないのではないだろうか。


 こんなことは今まで考えたこともないのでどうしたらいいのか答えがすぐには見つからないが、俺がここでこの誘いをオッケーしてしまえば恐らく水菜は嫌がるだろう。俺が逆の立場でも水菜が俺以外の男ばかりが参加するクリスマスパーティには参加してほしくない。


 しかも、水菜以外の女の子が何人か居るだけではなく、そこにはほぼ確実に結衣も参加することになるだろう。

 嫉妬してくれるかもしれないと考えると嬉しくなってしまうが水菜を悲しませたい訳ではない。それなら、俺はこの誘いを断るべきである。


「ごめん。その日は予定……」


「先輩、気にせず参加してくださいね」


 俺が断ろうとした矢先、俺の回答を理解していたかのように水菜は俺がパーティに参加することを容認する発言をした。


「あれ、みずみず二十五日もしかして無理だった?」


「はい。すいません。その日は家族と自宅でパーティするって決まってて」


「いや、それならしおしお誘うのやめとくよ‼︎ お役御免‼︎ さらばしおしお‼︎」


 水菜は俺に行ってきてくださいと言うが、その表情からは明らかに無理していることが感じ取れる。

 このままの流れで茜がクリスマスパーティを俺無しで開催しようとするのは俺にとって最善の流れだった。


「いえ、本当に大丈夫なので誘ってあげてください。イブは一緒に過ごすとはいえ、クリスマス当日に一人ぼっちな先輩は可哀想なので」


「確かにそりゃ可哀想だね。クリぼっちってやつだね」


「おい本物のクリぼっちにクリぼっち呼ばわりされる筋合いはないぞ」


 クリスマス当日は水菜と一緒な過ごせないとはいえ、正確にはイブは水菜と一緒に過ごすんだからクリぼっちではないだろ。


 むーっ、と頬を膨らます茜はさておき、この状況、どうするべきか……。


「水菜ちゃん、無理しなくていいんだよ?」


 この状況を見かねた結衣が水菜に助け舟を出す。


「いえ、無理してないです。だって、史桜は私の彼氏なんですから‼︎ 別に私がいないところで別の女の子と一緒にいようが、結衣先輩と一緒にいようが、結衣先輩は可愛い後輩の彼氏を横取りしようとする酷い先輩じゃないって信じてるので♡」


「ちょ、ちょっと別に私最初から横取りするつもりなんてないよ⁉︎」


「本当ですかぁ?」


「ほ、本当だって‼︎」


 いくら水菜と結衣が仲良くなったからとはいえ、水菜も中々やるようになったな。どれほど仲がいいとはいえ、先輩をイジるにはそれ相応の勇気とテクニックが必要だ。


「ですから、行ってきてください。あんまりはっちゃけ過ぎずに、楽しんできてくださいね」


 俺自身あまり乗り気ではないのだか、こうして俺は人生で初めてのクリスマスパーティに参加することになった。

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