第68話 二十五日の件
壮の発言の真意を考えながらも、火傷をする前に熱々な皿をなるべく早くテーブルに置きたい一心で結衣たちの座っているテーブルへと向かった。
右手にパスタの皿を三皿、左手にはパスタの皿を一皿持ち計四枚の皿を運ぶ。
初めて店長にこの皿の持ち方を教えてもらった時は絶対持てないって思ったっけなぁ。
「お待たせしました、カルボナーラでございます」
俺がそういうと、席に座っていた全員が手を挙げた。
「いや、お前らな、全員カルボナーラ頼んでんだから手挙げなくてもこっちは困らんぞ」
俺が呆れた声でそう言いながらカルボナーラをテーブルに置いていくと、茜が、くっくっく、と笑う声が聞こえてきた。
「甘い、甘すぎるよしおしお」
「何がだよ」
「私たちは今ね、しおしおが誰が一番好きかゲームをしてたんだよ‼︎」
……また訳の分からない事を。
俺は水菜と付き合っているのだから、水菜が一番好きに決まっている。
「何言ってるのかさっぱりなんだが」
「判決を下します。しおしお被告。あなたが一番好きなのは……。史織ちゃんです‼︎」
俺が史織を一番好き? そんなの当たり前だろシスコン舐めんな……おっと、シスコンは皆んなには秘密だぜ。気持ち悪がられるからな。
それにしてもなぜ茜は俺が史織を一番好きだと思ったのだろうか。流石の茜でもなんの根拠もなくそんな事を言うとは思えない。
「なんでそんな事分かるんだよ」
「しおしお、一番最初に史織ちゃんの前にカルボナーラおいたから」
……な、なに⁉︎ 普段から俺はシスコンだと気づかれない様に注意して行動しているというのに、俺とした事がこんなところで無意識にシスコンを出してしまうなんて……。
「ぐっ……。まさかそんな事で俺がシスコンだとバレるとは……」
「いや、もうバレてますからね? 史桜がシスコンなの、バレバレですからね?」
彼女にまでシスコンがバレてるなんて……。いつバレた⁉︎(最初から)
「シスコンはキモい」
「おい梨沙、シスコンはキモくない。かっこいいだろシスコン」
「キモいは訂正するけどカッコよくはないだろなに言ってんだあんた」
「榊くんは妹想いのお兄ちゃんなんだね」
「結衣……」
シスコンで気持ち悪い俺の事を肯定してくれる女神は結衣だけなのか……。やっぱり結衣が一番やさし……。
「でも彼女の水菜ちゃんより先に詩織ちゃんの前にカルボナーラを置くって行動は見過ごせないかな」
やばい‼︎ この席敵しかいない!
「残りの商品もお持ちします‼︎ 少々お待ちください‼︎」
そう言って俺は早足でキッチンに逃げ込んだ。
「……はぁ」
「大変そうだったな。キッチンから思わず料理作る手止めて見入ってたわ」
「いやそれは料理しろよ」
「それで、さっきの話ってのは……」
「ほら、これで最後な」
俺が壮に先程の発言の真意を尋ねようとすると、壮はまたしても俺の手の上にパスタの皿を乗せてきた。今度は一皿とはいえ熱いものは熱い。
パスタ皿の熱さにはやはり耐えられないし、熱々の料理を提供するのが俺たちスタッフの仕事なので、俺は壮の発言の真意が気になりながらも急いで再び結衣達のいるテーブルに向かった。
「お待たせしました。カルボナーラです」
「うん、おちょくりはしたけどさ、ナチュラルに私にカルボナーラ提供するのが最後って酷くない?」
「もし気に入らない様であれば回収いたしますが?」
「た、食べるもん‼︎」
そう言って茜は急いでカルボナーラを食べ始める。別に本気で回収しようと思って言ってないんだしそんなに急いで食べなくてもいいんだけどな。
「あ、ほーえばひおひお」
「うん、口の中身無くなってから話そうな」
「二十五日、みんなでクリスマスパーティしない?」
クリスマスパーティ? 二十五日に?
これが壮が言ってた二十五日の件ってやつか……。
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