第67話 冬休み前の放課後
終業式を終えた俺と壮はティモに到着し、バイトに集中していた。
客足の少ない普段のティモでは集中などせずともやって行けるのだが、今日ばかりはそうはいかない。
明日から長期連休となれば壮の様にテンションが上がる学生は多い。次の日に学校が休みなら朝早く起床する必要もなく、友達とご飯を食べに行ったりゲームセンターに行ったり、遅くまで遊ぶ事も可能だ。補導はされるなよ良い子のみんな。
忙しいとは言ってもお財布事情の厳しい学生は料理を何品も頼む訳ではなく、メイン一品とドリンクバーを頼んで話し込んでいるだけなので、猫の手も借りたい程忙しいかと言われればそうでもなかった。
「ねぇちょっと店員さん‼︎ 料理持ってくんの遅くない? お腹ペコペコなんだけど‼︎」
俺が空いた皿を片付けていると、自分たちのグループの会話そっちのけで俺の事をジロジロと見つめながら我儘を言ってくる客がいた。
「お客様、ただいま順番にご提供しておりますのでもうしばらくお待ちください」
「えー、何その話し方、ちょっと違和感……というか……なんか気持ち悪い」
「お客様、もし私のせいで気分を害される様であればお帰りください。お早めに」
「あっそう、分かった分かった帰る帰る……ってなんで私が帰らされるの⁉︎」
そりゃ俺はバイト中だからな。帰れる訳がない。
我儘を行った後であまりにも綺麗なノリツッコミを見せたのは茜だ。
今日もティモには結衣、水菜、梨沙、茜、史織の五人がやってきている。
「そうです、お帰りくださいお客様……って史織⁉︎ どうして史織がこんなところに⁉︎」
「お疲れ。史桜くん」
「おうお疲れ、じゃくてだな。なんでこんなとこにいるんだよ」
俺たちがティモに来る様になってから、史織はこの集まりに来た事がない。と言うか接点もないし来る意味ないだろ。
「なんでって水菜に誘われたから。それに史桜くんのお友達とも仲良くなりたかったし」
仲良くなりたかったってそんな理由かよ……。
茜は「しおしおとは違ってめちゃかわだね」なんて失礼な事を言いながら史織の頭を撫でる。
やってる行為は可愛いのに発言は怖いよね。やめてほしいわほんと。
それに茜、どっちかって言ったらお前撫でられる側だろ。
「あんたは撫でられる側でしょ」
俺の心の声を梨沙が代弁して茜を撫でてくれた。流石梨沙、壮の彼女を務めてるだけある。
「もう、やめてよリサリサ。そんなことより、お腹すいたんですけど‼︎ よし、店長呼んでこい‼︎」
「えーっと、それはクレーマーごっこですか?」
「ごっこじゃないよ‼︎ 正真正銘のクレーマーだよ‼︎」
「はぁ。いい加減にしてくれ茜。こっちも暇じゃないんだ」
「へいへい。忙しいんだろうけど頑張ってねー」
茜に励ましの言葉をかけられながら俺はキッチンへと戻った。
もしかすると、茜なりにバイトで疲れていた俺を元気付けようとしてくれていたのだろうか。
……ないな。茜はそんなに気を遣える奴じゃない。
「なんかお前、最近やたらと茜に好かれてるよな」
キッチンに戻ると今日は料理担当の壮が話しかけてきた。
「あれは好かれてるって言っていいのか? オモチャ感覚でちょっかいかけてきてるだけな気がするしむしろ厄介なんだけど」
好かれている、というよりは懐かれていると言った方が正しいだろう。
茜を校門前で助けてから、やたらと懐かれている感覚は確かにある。
「まぁ嫌われてるよりはマシなんじゃないか。それで、史桜は今年のクリスマス、水菜ちゃんとどっか行くの?」
「二十四日に飯食いに行く予定はあるよ。二十五日は家族で過ごすって言ってたけど」
「そっか。まぁ仲良くな。今が史桜にとって一番幸せな状態なんだからさ」
「どうしたんだよ改まって。なんかキモいわ」
「二十五日は断ってもいいからな」
「は、なんの話?」
「ほら、これ持ってけよ」
そう言って壮は俺の手の上にアツアツのパスタが入った皿を乗せる。パスタの皿は熱いため、壮の発言の真意を訊く事が出来ないまま急いで結衣たちのいる席に向かった。
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