第66話 冬休み
教室に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
いつもと変わらない普通のチャイムだし普段なら意識して聞く事などまず無いのだが、このチャイムが鳴るのをどれだけ待ち侘びた事だろうか。
普段の放課後よりも教室の中が少し騒がしい。その騒がしさに負けない程の大きな足音が聞こえてきて、その足音が次第に俺の教室に近づいてくる。
「明日から冬休みだぜ‼︎」
俺とは別の教室から息を切らしながら俺の机まで走ってきたのは壮だ。
壮の言う通り、俺たちは明日から冬休みに入る。
授業の終わりのチャイムは同時に冬休みの始まりを告げる合図でもあったので、チャイムが鳴るのを待ち侘びてたって訳だ。
俺とは違うクラスの壮がチャイムが鳴りやんですぐに超ハイテンションで走ってきてしまう程、学生にとって冬休みとはテンションが上がる最高の出来事なのである。
まぁ夏休みよりもかなり期間は短いので魅力はかなり劣るのだが、それでも長期の休みは重要なものである。
「テンション上がるのは分かるけどな、暑苦しいから近寄らないでくれ」
冬の寒さも本番に近づいてきて肌寒い日が続いているというのに、壮はやたらと暑苦しい。どこかの芸能人くらい暑苦しい。
「もう今から史桜にキスしてもいいくらいだわ。ほら、顔近づけようぜ」
「キモいわ。キスすんのは梨沙だけにしとけ」
一人で勝手にテンションが上がっている壮を横目に俺は結衣達が話している方に目をやる。
結衣はいつものメンバー、梨沙と茜の三人で会話をしている。
冬休みかぁ。
そうなるとしばらく学校の奴らには会えない事になる。
この前の夏休みはティモにバイトをしに行って壮、水菜に会うくらいでもよかったのだが、いざ結衣やその友達と仲良くなってしまうと長期の休みに会えなくなるのを寂しく感じてしまう。
今は放課後にみんなでティモに集まったりもしているが、冬休みに態々みんなで集まることもないだろうし。
結衣にしばらく会えないのか……。
ば、馬鹿。何考えてんだ俺は。
俺には水菜って彼女がいるんだから。冬休みが始まってすぐ、クリスマスに会う予定も立ててるし、それ以外にも水菜とは頻繁に会う事になるだろう。
そう考えればそんな寂しさなど吹っ飛んでしまう。
「え、なに寂しそうな目で梨沙達の方見てんの?」
「ば、馬鹿‼︎ 何言ってんだお前は‼︎」
図星である。寂しそうに結衣の方を見ていたのは事実だ。
だがこれは別に未練があるとかそういう訳ではない。
水菜は学年が違うし結衣みたいに学校でずっと一緒にいる訳ではない。学校で一緒にいるとしたら昼休みに中庭で弁当を食べる時くらいだ。
しかし、結衣は水菜とは違って同じクラスでずっと一緒に過ごしている。一緒にいる時間が長ければ長いほど、会えない期間をなんとなく寂しく感じてしまうだけだ。
「いや、なんか寂しそうな目してたからさ」
「べ、別に結衣の事なんか見てねぇよ」
「あっそ」
壮の奴、気安く変なこと言いやがって……。俺はもう結衣に未練など無いのだから、俺が結衣だけを見ているなどあり得ない。
「ほらバイト遅刻するぜ」
俺はそう言って歩いていく壮に、そうだな、と返事をして立ち上がった。
「別に結衣ちゃんの事見てただろ、なんて一言も言ってないんだけどな」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもねぇよ。ほら、早く来いって」
壮に急かされて、俺は少し駆け足で壮のところまで駆け寄る。
冬休みで学校が休みになる事を喜んだり、みんなに会えない事を寂しく思ったりしながら教室を後にした。
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