第62話 隠す気持ち

 みずみずがしおしおと付き合ってから、ゆいゆいはいつも元気が無かった。

 みずみずが幸せなのはもちろんいい事だが、ゆいゆいの友達としては両手を広げて喜ぶ事は出来ないし、ゆいゆいに元気が無い事を心配してしまう。


 しかし、いつからかみずみずとゆいゆいが以前よりも仲良くなった様に見える。

 一緒にティモに行くようになった理由もいまいち理解していないが、みんなでティモに行くようになってからは少し表情が明るくなった様にも見える。


 しかし、恐らくゆいゆいのしおしおが好きな気持ちは消え去っていない。消し去ろうとしても中々消し去る事が出来るものではないのだろう。


 好きなのに、その気持ちを押し殺そうとしているゆいゆいを見ていて私は腹がたった。


 何せ私もしおしおが好きなのだから。


 私がしおしおを意識し始めたのはゆいゆいがしおしおと付き合っていたという話を聞いたからだ。


 ゆいゆいはすれ違う誰もが振り返る超絶美少女で、友達やってると横を歩きたくなくなるなんて事もある訳ですよ。

 いや、もう自分でゆいゆいの友達って言うだけで恐れ多い。それくらいの美少女だ。


 それがしおしおみたいな地味で何の取り柄も無さそうな男の子と付き合ったとなれば不思議になるのも仕方がないでしょ?

 ゆいゆいの様に魅力的な女の子と付き合ったしおしおという存在が気になった私はそれ以来私はしおしおの行動に注目するようになった。


 しおしおの事が好きだとは言うものの、特にしおしおを好きになったきっかけも無いし理由も無い。


 そんなものなの? と訊かれるかもしれないけど、そんなものだった。


 私はもう高校生だが、小学生の時はあの子が身長が高いから、あの子が足が速いから、なんて単純な理由で男の子を好きになるくらいなのだから、しおしおの事を見ている時間が増えた私がしおしおの事を好きになるのにも特に深い理由は要らないのではないだろうか。

 まさか理由もなく男の子の事を好きになるとは思わなかったけど。


 ゆいゆいと別れたしおしおは学校にいる時はみずみずといる事が多くなった。


 ゆいゆいとしおしおが別れた時はチャンスなのではないかと思ったが、友達が付き合っていた彼氏と別れた瞬間にその彼氏と仲良くしたり付き合うのはご法度な気がした。

 恐らく私はゆいゆい程しおしおに対する想いが強くないし、変な事をして友人関係が悪化するくらいなら何もしない方がいいと考えた。


 そして私が何もしていない間にしおしおはみずみずと付き合って私にチャンスは無くなった。


 しおしおがティモでバイトをしている坂井って人だって知った時は驚いたが、それを知って私の中のしおしおを好きな気持ちは余計に薄れていった。

 ゆいゆいは坂井くんとしてのしおしおも好きだったのだから、私がしおしおの事を好きになってはいけない理由は更に増えてしまったのだ。


 ゆいゆいは今でもしおしおの事が好きだ。それもどうしようもなく。


 私の好きは、どうしようもないものではない。降って沸いた様なこの感情はいつか簡単に消え去ってくれる。


 そう思って私がゆいゆいのために我慢をしているというのに、ゆいゆいが遠慮してしおしおの事を好きな気持ちに嘘をついているのは許せなかった。


 だから私はゆいゆいを焚き付けたのだ。


 私は、自分の気持ちを隠す事ができる。この気持ちはすぐに消え去ってくれる。

 それが確信なのか、それとも願いなのかは分からないが、最後にはあれが確信だったと言える状況になっている事を願うばかりだ。

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