第63話 ヒーローごっこ

「さぁ、今日もやったりますか」


 私、小宮茜はティモに行く誘いを断って校門前に立ち、腕まくりをして意気込んでいた。


 私が意気込んでいるのは学校に押しかけてくる悪者を撃退するためだ。私はヒーロー戦隊のピンク‼︎いや、黄色も捨てがたいな……。


 腕枕をして意気込んでいるものの、校門の前で何もせずに経っているだけなのは怪しいので、校門にもたれかかりながらスマホを弄って友達を待つフリをしている。


 そしてスマホを弄っていると、今日もノコノコと私の目の前に標的がやってきた。


「あ、あの……」


 モジモジと話しづらそうに声をかけてきたのは別の学校の制服を着た女子生徒。うん、恋する女の子ってのは可愛いもんだね。


「もしかして坂井くんですか?」


「--はい‼︎ 坂井さん、いますか?」


 そう、この子はしおしお目当てでうちの高校までやってきたのだ。

 しおしおがティモでの坂井くんだと知れ渡ってから、しおしお目当てでうちの高校まで足を運ぶ生徒が後をたたない。


 学校まで来なくてもバイト先で声かけろよ、と思うかもしれないがそれは不可能だ。

 

 しおしおがバイト中に女の子から声をかけられているシーンを目にした事があるが、彼女がバイト先にいるからか、「今仕事中なので」といって直ぐ厨房に下がっていってしまう。


 となるとしおしおと話すには学校に来るしかない。


 しおしお目当てでうちの学校に来る女子生徒の殆どがしおしおが帰宅部だと言う事も知らずに、部活中のしおしおに会えるのではないかと思ってやってくる。 

 そんな事も知らずにしおしおに会いに来るとは考え方が甘い‼︎ そんな甘さでしおしおに会うのなんて百年早いわ‼︎


 実は今までしおしおが自分目当てで学校に来ている女の子が沢山いると言う事実に気づかないでみずみずと平穏に幸せに過ごせたり、ゆいゆいに新たな敵が増えないのは私のおかげなのである。


 何故かって? 私が今校門に立っているのはしおしお目当てでやってきた女の子を撃退するためだからだよ‼︎


「坂井くんならもう帰ったよ‼︎」


 帰ったのではない。帰らせたのである。私、策士。ふはははは‼︎


「あ、そうなんですね。どこに行かれたか知ってますか?」


「いや、ちょっと分かんないけどさっき彼女さんと二人で学校から出てくのは見たよ」


「え、やっぱり彼女さんがいるんですか」


「うん。私も最近知ったんだけどね」


「そうですか……。もう帰ります。お邪魔しました……」


 私がしおしおに彼女がいる事を伝えると私の標的は学校を後にした。


 しおしお目当てでうちの学校まで足を運ぶ女の子はしおしおに彼女がいる事を知らない人ばかりなので、大概の人はその事実を伝えると落ち込んで帰っていく。

 なので私は校門の前に立ち、しおしお目当てでやってきた女の子にやんわりと彼女がいる事を知らせ、諦めさせている。


 とはいえ、私がそれを出来るのはたまにティモに行く誘いを断る時か、他のみんなに用事があってティモに行かない時くらいだ。

 みんなで一緒にティモに行く時は何も出来ないし、もしかしたらしおしおは女の子のラインのIDが書かれた紙を誰かから受け取ったりしているかもしれない。

 っま、無理してしおしおに近づく女の子全員を遠ざけようとしてる訳じゃないしね。物理的に無理でしょそんなの。その数を少しでも減らせれば私の作戦は成功である。


 今、私たちのグループはゆいゆいがしおしおに未練タラタラなところを除けば上手く回っている。

 それなのに、ここでしおしおに新たな虫がついてしまってはまた厄介な事にもなりかねない。


 これでみずみずとゆいゆいが、そしてみんなが幸せになれるのなら出来る限りの事はやってみよう。


 小一時間程で二、三人の標的を撃沈させた私は響き渡る運動部の声を聞きながら帰宅した。

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