第55話 元カノの違和感

 皆さんこんにちわ。榊です。


 私はもう坂井ではありません。


 坂井の姿をしてはいますが、見た目が坂井だったとしても榊なのです。


 そんな私が何をしているかというと……。


「あ、あの……」


「……なに?」


 そう、俺は今、いきつけのカフェに来ている。元カノと。


 元カノと‼︎


 俺に元カノって存在が出来た事自体驚きではあるが、急に元カノと二人でカフェに来るというこの状況の方が驚きである。


 やっぱり水菜より結衣の方がいいなぁ、なんてクズな考えを持ってるとかではありません。

 何やら怒号が聞こえるような気がしますが皆さん静粛に。私は女性の敵ではありません味方です。


 ではなぜ俺が結衣と二人でカフェに来ているか。


 それは水菜から結衣と二人で遊びに行くよう願いされたからだ。

 今カノから元カノと遊んでこいと指令を受けるとは思わなかったので、その話を聞いた時は呆然としてしまった。


 水菜は今の結衣の状況に気を揉んでいるらしく、なんとかして元気を取り戻してほしいと思っているらしい。

 水菜からそう聞いた時は正直驚いた。水菜からすれば結衣は散々苦しめられた因縁の相手のはず。それを心の底から助けたいと思える俺の彼女、最高。


 最高なのだが、俺の方から別れを告げた元カノと二人でカフェに来るとか気まずすぎるだろ。気まず過ぎて吐き気するわオヴォロロロロ。


 水菜からこの話を聞いたのは今日の放課後だった上に、「早く行って下さい‼︎」と急かされたため水菜からは詳しい話を何も聞かされていない。

 なので俺は俺と水菜が付き合っている事を結衣が知っているのかどうかすら知らないのだ。せめてもの救いは結衣をカフェに誘ったのが俺ではなく水菜という事。


 何はともあれ、俺と水菜が付き合ったという状況を結衣が知らない事には話が進まない。言いづらい話ではあるがあまり角が立たないように結衣に伝えなければ。


「俺、水菜と付き合うことになったんだけどさ」


「なにそれ、元カノに対する嫌味?」


 ひいいぃぃいんっ。元カノ怖いっ。


 今のは俺の言い方が悪かった。嫌味だと受け取られても仕方がない。

 とはいえ、それ以外の言葉って何かある? どれだけ考えても今の言葉しか思い浮かばないんだけど。


 はぁ……。俺の彼女、いつもの能天気な笑顔で雰囲気ぶち壊しに来てくれねぇかなぁ。


「ご、ごめん。そんなつもりは……」


「……ふふっ。冗談だよ。驚かせてごめんね」


 冗談にしては切れ味が砥石で研いだばっかりの紫色くらいだった気がするんだけど気のせい?


「冗談かよ……。いやそりゃ本気で言われるよりはマシだけどさ」


 冗談に見えないほどの迫力があったのは結衣が心の底では俺にブチギレているからなんて事はないはず。

 きっと結衣が演劇部とかなんかそう言うのに加入してるからに違いない。帰宅部なの知ってるけど。


「おめでとう。お似合いだね、真野さんと榊くん」


 祝福の言葉をかけられた俺は結衣にありがとうとお礼を返す。

 しかし、俺は結衣との会話に違和感を抱いていた。その違和感が何なのかは分からないが、どこか今まで通りではないような気がしている。

 特に結衣がおかしな事を言っている訳ではないのに、俺が感じているこの違和感はなんなのだろうか。


「お似合いだなんてそんな。水菜は俺にはもったいないよ」


「勿体なくなんてないよ。榊くん、凄く素敵だし真野さんが好きになるのも無理はないと思う」


 なんかこの会話、結衣に対してとても失礼なのではないだろうか。まあその話は置いておいて、やはり結衣との会話にどこか違和感を感じる。

 俺は結衣との会話のどこに違和感を抱いているのだろう……。


「べ、別にそんなことは……」


「そんな事あるよ。榊くんの事、私も好きだったんだから」


「あ、え、い、いや、ま、まぁそれはそうかもしれないけど……」


 何これ気まずい‼︎ そう言ってくれるのは嬉しいけどそんなこと言われたらどうしたらいいの俺‼︎


 --あ。俺が今感じてるこの違和感の正体分かった。


 結衣が俺のこと、史桜くんじゃなくて、榊って呼んでる。

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