第54話 付き合った翌日2

 水菜が俺の部屋にいる。


 そもそも女の子を自分の部屋に連れ込んだ経験が皆無なのでソワソワしてしまい落ち着く事が出来ない。

 リビングにいるだけでも違和感満載だったが、リビングよりもかなり狭い六畳の俺の部屋に俺と水菜の二人しかいないという状況はさらに違和感を感じさせる。


「あの時はあんまり見れてなかったですけど、先輩の部屋ってこんな感じなんですね」


 あの時って言ったら俺が無意識に水菜に抱きついてた時だよな……。

 史織にお願いして俺が水菜に抱きついていたという事実を知っている事は隠して置いてもらった訳だが、もうこんな関係になった今、わざわざ俺がその事実を知っている事を隠す必要もないか……。


「すまん。あの時は無意識で抱きついてたみたいで」


「あ、先輩知ってたんですか?」


「史織から聞いたんだよ。本当は隠しておこうと思ったけどな」


「先輩に抱きつかれた時も焦りましたけど、正直史織に見られた時の方が焦りましたね」


「あいつ、そういうとこあるよなぁ。あいつの兄ちゃんやってる俺でも未だにあいつの行動は読めないからな」


 結衣と付き合っていた時に二人でカフェで話していた時よりも、水菜と一緒にいると俺は自然体でいられる。

 まぁそりゃ水菜と結衣とでは一緒にいた時間の長さが違うから、一緒にいるのに慣れてて話しやすいってだけなのかもしれないけどな。


「はい。史織の行動は本当に読めません。まぁそれも史織らしさですし私は好きですけどね」


 はぁぁぁぁ。


 俺の目の前でニコニコしながら喋ってる水菜可愛すぎんだろちくしょぉぉぉぉ‼︎

 出来る事なら今すぐ抱きつきてぇなぁ。まだ高校生だしさ。それより先とかは全く考えてない……って事はないけど、抱きつくくらいなら許してくれるだろ? 抱きつくだけじゃなんかちょっと物足りない気もするのでせめてキスまでは許していただきたい……。


 まぁいくら付き合ったとはいえ俺には水菜に抱きつく度胸もキスする度胸もないけどな。


「まぁこれからも仲良くしてやってくれよ」


「こっちからお願いしたいですよ。史織の事、本当に好きなので。それと先輩……」


「ん? どうした?」


「抱きついてもいいですか?」


 --え、そりゃ願ったり叶ったりだけどやっぱり付き合ったらそういうことしてもいいの⁉︎


 無意識に水菜に抱きついたあの日から、俺には水菜に抱きついた時の艶かしい感触が残っていた。

 あの日からずっと、俺は水菜に抱きつきたいと思っていたのかもしれない。


「そ、そりゃ構わないけど……」


「あ、あの日、先輩に抱きつかれた時、すぐに史織に見つかってあんまり先輩に抱きつかれた感触とか覚えてなくて……。でも、あったかかったのだけは覚えてるんです。あの日からずっと、抱きつきたいと思ってました」


 俺と一緒かよ。可愛いかよ。


 てか本当の彼女になった水菜可愛すぎん? 尊死するよ俺。


「お、俺もそう思って……っておふっ‼︎」


 俺が返事をしようとした途端、水菜は俺に飛びついてきて俺はそのままベッドに押し倒される形となった。


「あの日は私が先輩に抱きつかれていた形だったので、今日は私から先輩に抱きつきます」


「そ、そうか」


 なにもういい匂いするしちっさいし肌めっちゃ綺麗だしなんなこれ‼︎ なんでこんなに真っ白で肌とかすべすべなん? 作り物か何かですか‼︎


「やっぱり先輩と抱きついてるとあったかいですね」


「まぁそりゃ誰に抱きついたってあったかいだろ」


「そういう話をしてるんじゃないですよ」


「そ、そうか……」


「先輩」


「なんだ?」


「私、やっぱり先輩の事が大好き……」


 水菜が何かを言いかけたその時、俺の部屋の扉が開いて史織が入ってきた。


「コーヒー、持ってきたよ」


 俺は史織の兄ちゃんだし、彼女と抱きついていたところでそこまで恥ずかしさはないが、水菜はそうはいかないだろう。


「なんでまたこのタイミングで入ってくるのぉ‼︎」


 うん、なんかやっぱこれくらいが俺たちらしくて丁度いい。


 結衣との関係が複雑になってしまったしまった時期はあったものの、俺はその時期を乗り越えてやっと幸せを手に入れたのだった。

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