第53話 付き合った翌日1
水菜と付き合う事になった俺は翌日、学校が終わってから水菜を家に呼んだ。
家に両親がいるのではないかと心配する人もいるだろうが両親は長期の旅行からまだ帰宅していないため自宅にはいない。
かと言って別に変な事をしようというわけではない。
水菜を家に呼ぶなら旅行に行っていて両親がいない今しかないと思ったのだ。
まず俺が水菜を家に呼んだ理由、それは……。
「おめでとう。思ったより早く付き合うから驚いちゃった」
「あ、ありがと。私もまさかこんなにすぐ先輩と付き合う事になるとは思ってなかったんだけど……」
そう、俺の妹であり水菜の友達でもある史織に水菜と付き合った事を報告しなければならないと思ったからだ。
そもそも水菜と史織が友達っていう事自体がよく考えてみると奇跡だよな。あれ、妹の友達と付き合ったって結果だけ聞くとなんか俺ヤバいやつだな。
水菜と同じく俺もまさかこんなに早く水菜と付き合う事になるとは思っていなかった。
水菜が他の男に取られるかもしれないという危機感から俺は自分の本当の気持ちに気が付けた訳だし、その気持ちに気づいたのが昨日ともなればこんな事になるとは予想も付くまい。
「本当によかった。これで私と水菜は家族になった訳だ」
「え、いや、ちょっと家族はまだ気が早すぎない? 付き合ってまだ一日しか経ってないんだけど」
「きっと水菜ならやってくれるって信じてる」
「やるって何を? え、ねぇ何をすればいいの? ちょっと目が怖いよ史織‼︎」
こんな二人の会話が見られるなんて、ちょっと前の俺は想像もしていないだろうな。
そして俺には史織に水菜と付き合った事を報告する以外にもまだまだ水菜に問い詰めたい事があった。
「あのさ、俺と結衣を別れさせようとしてたのってやっぱり俺のことが好きだったからなの?」
「な、なんて事聞くんですか⁉︎ そんな恥ずかしい事言えるわけないでしょ⁉︎」
「あ、でも反論しないって事は図星」
「……そうですよ図星ですよ‼︎」
図星なのかよ。そこだけ素直で笑うわ。
「じゃあ結衣に俺と別れてくれって言いに行ってくれてたのは?」
「先輩の事が好きだったからですよ‼︎
「じゃあ弁当作ってきてくれてたのは?」
「先輩の事が好きだったからですよ‼︎」
「昼休み一緒に弁当食べてたのも?」
「先輩の事が好きだったからですよ‼︎」
なんだこれ。もうこいつヤケクソだな。
だが、水菜の口から俺の事を好きだと直接聞けるのはやはり嬉しかった。
「コラ、史桜くん。もう水菜をからかうのはやめてあげて。これで史桜くんと水菜が喧嘩するのも嫌だし」
お前、前は散々水菜の事からかってたじゃねぇか。人に言える立場じゃねぇだろ。
「そういえばなんで史織って先輩の事史桜くんって呼ぶの? お兄ちゃんの先輩が史織って名前で呼ぶのは普通だと思うんだけど、史織が先輩の事を史桜くんって名前で呼ぶのってなんか違和感あるんだけど……」
「確かに珍しいよね。史桜くんと一緒にいた時間って短いから、お兄ちゃんって呼びづらくなっちゃって。いつの間にか下の名前で呼んでたってだけだよ」
いいんだぞ史織。俺はお前にお兄ちゃんって呼ばれたいって思ってるからな。いつでもお兄ちゃんって呼んでくれよ。
そう心の中で囁きながら優しい微笑みを史織に向けると、笑っているようで笑っていない微笑みを俺に向けて返してきたので俺はうんうんと二回頷いて変な事を考えるのはやめた。
「なるほどね。そうなっちゃうんだ」
「うん。そうなっちゃった。それより水菜は史桜くんのこと、いつまで先輩って呼ぶの?」
「え⁉︎ そ、それは、えーっと……」
いくら付き合い始めたとはいえ、後輩が先輩を下の名前で呼ぶのには恥ずかしさもあるし抵抗もあるだろう。
とはいえ、今の反応を見る限りでは水菜自身俺の事を先輩と呼んでいるのには後ろめたさがあるようだ。
「一回呼んで見て。史桜って」
「よ、呼び捨て⁉︎ 流石に先輩の事を呼び捨ては……」
「呼び捨てが嫌ならお兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぞ」
「ごめんなさいそれは無理です気持ち悪いです」
「じゃあ史桜って名前で呼ぶしかないね」
「ううぅぅぅぅ……」
本気でお兄ちゃんって呼んでほしいとは思ってない(思ってる)ので、俺がお兄ちゃんという第二の絶対に呼びたくない呼び方を提案する事で第一の呼び方のハードルを下げるという作戦だったのだが、作戦と自分で理解していながらもやはり気持ち悪いと言われるのはかなりダメージあるな……。
「恥ずかしがってても仕方がない。とりあえず呼んで見て」
「……史桜」
--ぐはっっっっ‼︎
これはダメージがデカい‼︎ デカすぎる‼︎ いや、ダメージがデカすぎるのではなくてどちらかと言えば回復しすぎてもうお腹いっぱいです‼︎ って感じだな。
「いただきました」
「いただかれないでください‼︎ なんか先輩だけずるいです‼︎ 私だけ恥ずかしい思いするなんて平等じゃありません‼︎ 史織と先輩にも恥ずかしい思いをしてもらわないと困ります‼︎」
「恥ずかしい思いって言われてもなぁ。俺はもう水菜の事は水菜って名前で呼んでるし、恥ずかしいことなんて無いけど」
「なにか‼︎ 何かないんですか‼︎」
「水菜、落ち着いて。とりあえず私はお邪魔だと思うから二人で部屋に行ってきなよ」
「--部屋?」
史織からの提案で俺と水菜は二人で俺の部屋に行く事になった。
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