第49話 史織の気持ち
私が水菜の気持ちに気が付いたのは割と早い段階だったと思う。
水菜から直接史桜くんの事が好きだと聞いた訳ではないが、水菜の言動で水菜は史桜くんが好きなのだと気が付いた。
学校で私が水菜と一緒に廊下を歩いていた時、史桜くんとすれ違った事が何度かあった。
その時、水菜は必ずと言っていいほどに史桜くんの事を見つめているのだ。見つめているどころかすれ違った後も史桜くんの姿を目で追いながら首も回していた。
史桜くんと水菜が同じお店でバイトをしている事は知っていたので、最初はただ同じバイト先の先輩だからなんとなく目が行ってしまうのだろうと思っていたのだが、万が一の事があるといけないと思い水菜には私と史桜くんが実の兄妹である事は隠していた。
万が一の事とは、水菜が史桜くんの事を好きになる事である。
このまま私が史桜くんと兄妹であるという事を隠していれば、水菜が史桜くんの事を好きになる可能性はある。
しかし、史桜くんと兄妹である事を水菜に伝えてしまうとその時点で水菜は史桜くんから手を引いてしまうだろうと考えたのだ。
その考えのもと、私は史桜くんと兄妹である事をひた隠しにしていた訳なのだが、私の行動は正解だったようでみるみるうちに水菜は史桜くんの事が好きになっていった。
最初はすれ違う時に目で追っている程度だったのだが、水菜は史桜くんと同じ空間に居なくても水菜の方から史桜くんの姿を探すようになって行った。
水菜が窓際の席に座っていた時には窓から史桜くんのクラスが体育をしているのを見つめてニコニコしていたし、入り口側の席に座った時には一年生の教室の通りで中々上級生が通る事はないというのに水菜はずっと教室の外の廊下を見つめていた。
水菜が私と二人で話す時の内容も学校の話や昨日のドラマの話、好きな俳優の話やコスメの話などが中心だったが、そこに少しずつ史桜くんの話が混ざってきて、その回数は徐々に増えていった。
水菜が史桜くんの事を好きになってくれるのは嬉しい事だったが、いつからか水菜の表情は少しずつ暗くなっていった。
水菜は史桜くんが好きだという事を私にひた隠しにしていた(モロバレ)のであまり相談はしてくれなかったが、どうやら史桜くんは仁泉先輩と付き合っていたらしい。
水菜に手を貸すべきか悩んでいたが、水菜の手助けをしなければという想いが強かったため私は私と史桜くんが兄妹である事を伝えた。
水菜が史桜くんの事を好きだと確信してから逆に私と史桜くんが兄妹であるという事を言い出しづらくなってしまい、水菜に真実を伝えるのが遅くなってしまったが水菜から頼られたら精一杯手助けをしよう。
水菜は本当にいい子で、この高校に入学したばかりの頃の私は父親の転勤先にいたため高校入学時にあまり友達もおらず知り合いがいなかったのだが、たまたま隣の席になった水菜が私に優しく声をかけてくれた。
それからというもの、私たちは学校ではずっと一緒で水菜のおかげで友達も増えた。
そんな優しくて可愛い水菜が史桜くんと付き合ってくれるというのなら、私としては願ったり叶ったりなのである。
多少強引でも、水菜と史桜くんを引っ付けたいと思う一方で、水菜の気持ちは尊重しなければならないという想いも強い。
これからは適度にお手伝いをしながら水菜に頼られたら一生懸命協力しようと思う。
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