第44話 兄妹の話
学校から帰宅した俺はいつも通り自宅のリビングでソファーに寝転がりながらテレビを見ていた。
リビングにいるのは俺だけではない。リビングに置かれたテーブルの椅子に座っているのは早瀬史織。俺の妹である。
「お兄ちゃんって水菜と付き合わないの?」
「いや、あいつ俺のこと好きじゃねぇから。ただでさえ色々あって結衣とも関係がおかしくなってんのに水菜とまで関わりがなくなったら俺悲しみで死ぬよ?」
何くわぬ顔でそう質問してきた妹、史織は実の妹ではない、なんてラブコメ展開があるはずもなく、俺の実の妹である。
卑屈で根暗な俺とは違い……いや、根暗は根暗かもしれないが、史織は可愛い。
普段から無表情というコンプレックス的部分も、兄の俺から見ればチャームポイントだし、実の兄妹でなければ好きになってしまっているだろう。
それではなぜ俺と史織で苗字が違うのか。
その理由は簡単で、両親が離婚していたからだ。
両親は離婚してから別居をする事になり、俺は母親に付いていき、妹は親父の方について行った。なので、俺は母親の旧姓である榊、妹は親父の姓である早瀬という苗字になっている。
両親が離婚した理由もこれまた簡単で、親父の転勤である。
母親はどうしても親父に転勤してほしくなくて最後まで反対していたのだが、親父は家族を養うためには仕事をしなければならないと言って強引に転勤。そして母親が、転勤するなら離婚する‼︎ と子供のように駄々をこね、本当に離婚することになったらしい。
親父の転勤先の近くには親父の実家があるので仕事中も妹の面倒を見てもらえるが、母さんの両親はもう他界しており、母さんが働きに行くと面倒を見てくれる人がいないという事で、妹は親父、一人でも大抵なんとか出来そうな俺は母さんに引き取られたって訳だ。
「お兄ちゃんから告白したら絶対成功するのに……」
「え、なんて?」
「なんでもない。いやーでもまさかまたお兄ちゃんと一緒に暮らす日がやってくるなんてね」
そう、俺たちは再び同じ家で暮らすことになったのだ。
離婚したとはいえ理由が理由なだけに母さんと親父は一切会わないという訳ではなく、長期連休では親父と妹二人で俺と母さんが住む家に帰ってきたりしていた。
そんな関係を長々と続けていたところ、父親がまた転勤となり再び自宅近くの営業所に帰ってきた事で母親と父親の仲が回復し、俺たちはまた一緒に暮らす事になったって訳だ。
妹は高校に入学すると同時にこちらに帰ってきており、親父が転勤でこちらに戻ってくるまでは一人暮らしをしていたのだが、親父が帰ってくるという事で俺と母さんが住む家に戻ってくる事になった。
『昔の私はバカだったわ、家計のこともかんえず、結局あなたにささえてもらってばかりだった』
『いや、いいんだよ母さん。僕も、もっと他の方法を考えれば良かったね』
なんて臭いセリフを話していたのが両親じゃなければ素直にいい話だと思えたのかもしれないが、リビングから両親の声が聞こえてきた時はゾッとした。年相応ってもんがあるだろ。
なんだかんだ言っても、そんな二人のラブラブが俺が史織とまた一緒に住むきっかけになったというのなら感謝しなければならないのかもしれない。
「本当にな。またこれからよろしく頼むよ」
「こちらこそ。あ、それと明日はテスト勉強に集中したいからお母さんとお父さんには出て行ってもらうことになってるから。まあ出て行ってもらうっていうか最初から仲直り記念の旅行に行く予定があったみたいだけど」
「めでたい両親だな。まぁ父さんと母さんが仲がいいのは子供としては喜ばしいけどさ。それなら俺も出て行った方がいいか?」
「一人だと寂しいし……。一緒にいて欲しい……と思う」
何この妹、お兄ちゃん妹のこと好きになりそうなんだけど。妹なら絶対裏切らないだろうし。
そんな会話をした翌日、玄関の扉を開けると扉の前には水菜が立っていた。
くそう。お兄ちゃん、純粋無垢な妹に完全に騙されたんだけどぉ。
うん、でもいいや。妹なら。愛してるぜ。
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