第42話 図書室での出会い
仁泉先輩が私の誘いを断った事で、仁泉先輩と先輩が一緒にティモでバイトをする事にはならなかった。
そうなると私が御影先輩からサポートをしてもらうのも変なので私からお断りをしておいた。
そもそも誰かに協力してもらうより自分で成し遂げたいと思っていた部分はあるので結果オーライではある。
私が声をかけて以降も仁泉先輩は校内をボーッとしながら歩いている事が多く、校内では今仁泉先輩にアタックすれば成功するのではないかとの噂が広まってしまっている。
そんな状況になっても私と榊先輩と関わらないでおこうとしている仁泉先輩の覚悟はやはり相当なものなのだろう。
今日はバイトもなく、史織から誘われた私は史織と二人で図書室に行きテスト勉強をしていた。
「どう? そのペン、使いやすい?」
「うん。三色あるのは嬉しいね」
なぜ渡されたかいまいちわからないボールペンではあったが、消せるボールペンというのはやはり便利でこれから重宝しそうだ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言って席をたった史織に手を振りながら、私は勉強を続けていた。
恋愛云々で成績が下がってしまうのは望ましい事ではない。別段本が好きな訳ではないが、書物に囲まれながらの勉強はいつも以上に捗った。
しばらくして、図書室の扉が開く音がしたので勉強中だった私は教科書とにらめっこしながらトイレから戻ってきた史織に声をかけた。
「思ったより早かったねー」
「え、何言ってんの?」
「ああ、先輩ですか……って先輩⁉︎」
史織が帰ってきたのかと思っていたら、誰もいない図書室に入ってきたのは先輩だった。
なんで先輩がここに? 誰かの差し金? まさか御影先輩?
いや、でも仁泉先輩に誘いを断られた事はすでに御影先輩には伝えてあるし、その際サポートもいらないという事は伝えてあるので御影先輩のサポートとは考えづらい。
「先輩だけど。水菜も図書室で勉強してんの?」
「は、はい。今勉強してたところです」
「そっか。この学校、テスト期間でも図書室で勉強してる生徒って殆どいないからさ。テスト前は毎日図書室来てんだわ」
なるほど、学校では私以外まともに話せる人がおらずぼっちの先輩がテスト前になると一人で図書室に来ているという話には信憑性があるし、テスト前に図書室に来る先輩と、史織にテスト勉強をしようと誘われた私が図書室で出くわしてしまっただけなのだろう。
「確かに勉強しやすいですもんね」
「だろ? 横いいか?」
史織は私の正面の席に座っているので、先輩が私の横に座る分には何も問題は無い。
しかし、史織からすれば急に面識のない先輩と一緒に勉強する事になる訳なので、嫌がるのではないだろうか。
それなら少し席を離れて座ってもらった方が……。
「今友達と一緒に勉強してますけど、先輩が気にならないなら……」
私は欲に塗れたクズなのかもしれない。史織の事が頭をよぎったが、結局私は私欲で先輩を私の隣の席に座らせた。
「一人でやると集中出来るけどなんとなく虚しさあるからなー。水菜がいると気分アガるわ」
「ふぐっ----」
この先輩は本当に先輩だな……。軽々しく、特に意味もなくそんな言葉を吐くから好きになっちゃったんだけど。まだその癖直ってないの? それで他の女の子たぶらかすとかやめてよ?
「ま、まぁたしかに、一人よりはアガるかもしれないですけど」
「だろ? ……あれ、そのボールペン、俺が前使ってたやつのタイプと一緒だ」
--え? このボールペン?
まぁ消せるタイプのボールペンは人気で多くの生徒が使用しているし、たまたま私と先輩が同じタイプのものを使用している事もあるだろう。
「そうなんですか。使いやすいですよね」
「いやー気に入ってたのに最近無くしちゃってさ。多分どっかで落としたんだろうけど」
この広い学校でペンを落としてしまえば見つける事は困難になる。落とすイコール無くなるという事だ。
……あれ、そういえば今私が使ってるこのボールペン、落とし物箱に入ってたって言ってたな。しかも先輩が使っていたものと同じタイプ。
--このペンまさか先輩の⁉︎
そう思ったところでまた図書室の扉が開く音が聞こえ、今度こそ詩織が戻ってきた。
「ごめん、遅くなった」
「全然大丈夫。あ、この人は……」
「あれ、史織も図書室来てたのか」
--え? 今先輩、史織の事名前で呼んだ?
史織と先輩って面識あったの? そんな話聞いた事ないんだけど……。
「うん。史桜くんもきてたんだね」
--え? 史桜くん? 面識あるどころかお互い名前呼び⁉︎
私もまだ名前で呼んだ事無いのに‼︎ 親にもぶたれた事ないのに‼︎(混乱)
「史織って水菜と面識あったんだな」
いやこっちのセリフだわ。よくそんな飄々とした顔でそんな事言えるな。
「あるどころじゃないよ。すごく仲のいい友達」
「へぇ……。世間は狭いなぁ」
「ふ、ふ、二人はし、し、知り合いなんですか?」
「まぁそんなもんだな。どうした? 目が泳いでる上に喋り方おかしいけど」
「お、オカシクナイヨ?」
「おー。おかしいな。これは」
おかしくもなるわ。え、史織が先輩の事を史桜くんって呼んでて、先輩は史織の事を史織って呼び捨てにしてて……。よし、ここまでは付いてきてるえらいぞ私。
じゃあ学年も違う上に部活も入っていない二人が知り合いな上に、なぜ名前で呼び合っているのか……。
ここだ‼︎ ここに明確な違和感がある‼︎ 名探偵水菜‼︎ 流石だ私‼︎ すごいぞ私‼︎
「あ、あの、なんでお互い名前呼びを……?」
「べ、別にこれと言って理由はないけど」
こ、こいつ‼︎ この期に及んでしらをきるつもりか‼︎
「先輩‼︎ 今理由はないって言いながら明らかによそ見したじゃないですか‼︎」
「し、してねぇよ‼︎ ずっと水菜の顔見つめてたわ‼︎」
「ふぐっ----。言い方‼︎ 言い方‼︎」
なんか困惑してるこっちがバカ見たいじゃないですか……。
「いや本当、普通に知り合って、普通に仲が良いってだけだから」
「……はぁ。もうそういう事にしておいてあげます」
私たちのやりとりを母親のような目線で見守りながらニコニコと笑っている史織が、何を考えているのか私にはさっぱり分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます