第41話 掴みどころのない友達

 昼休みに意を決して仁泉先輩をバイトに誘った私だったが、その誘いは断られてしまい私は呆然としながら久々に教室でご飯を食べていた。


 仁泉先輩が私の誘いを断るとは思っておらず、驚くと同時に正直仁泉先輩の事を尊敬すらしてしまっている。

 今までの行動は異常だったとしても、一度決めた事はやり遂げる、という気迫を感じ取る事が出来たのは仁泉先輩にそれだけ覚悟があるという事なのだろう。


 今日は仁泉先輩に声をかけなければならなかったので、先輩には用事があるからと伝え弁当を作るのをお休みさせてもらった。

 梨沙先輩たちと、先輩には仁泉先輩をバイトに誘う事は言わない約束をしていたので、私が仁泉先輩に声をかけた事も、そして断られた事も先輩は知らない。


「あれ、水菜が教室で弁当食べてるの久しぶりだね」


 私に声をかけてきたのはクラスメイトで親友の早瀬史織はやせしおり


 史織は元気で明るい性格の私とは正反対の性格で静かで清楚な女の子だ。

 誰が見ても合わなさそうな私たちなのに、史織と一緒に居るのはなぜか居心地が良く、入学式で隣の席に座って以来よく喋るようになり今では親友となっている。


「かなり久しぶりだよー。なんでお前が教室で弁当食べてるの? みたいな冷たい視線も感じるしなんかもう居心地の悪さすら感じちゃってる」


 史織とは中庭で先輩と昼食を食べるようになる前に一緒に弁当を食べていたので、私からお願いして史織は別の友達と弁当を食べている。

 ずっと一緒に昼食を食べていたのに、私の都合で二人で弁当を食べなくなった事には常々申し訳なさを感じていた。


「そうだよね。大好きな榊先輩がいない空間は居心地が悪いよね」


「うんうん、そうなんだよねー……--って何言わせてんの⁉︎」


「別に言わせたつもりはないけど」


「それはそれで厄介だから」


 史織は掴みどころがなく、一緒にいて居心地がいいとはいえ、私と性格が合うのか合わないのかも分からない。

 それでも史織と一緒に過ごしている間は本当の自分でいられるので気が楽になる。二人で弁当を食べる事がなくなってからも、お昼休み以外はずっと一緒にいてくれる仲のいい友達だ。


「それで、榊先輩とは付き合えたの?」


 なっ……なんて直接的な質問を……。というか私、史織に先輩の事が好きだって直接話した事ないんだけど。え、私の先輩好きですオーラってそんなに滲み出てるの?

 いや、好きだけどそこまで滲み出てはいないはず。


「べ、別に好きじゃないし……」


「そんなしおらしい顔しながら言われても説得力ない。それで、付き合えたの?」


 史織にはあまり先輩の話をしていないので、今のややこしい状況も知らない。それゆえ、純粋な質問が投げかけられる。


「……まだだけど」


「そうなんだ。水菜くらい可愛ければすぐ付き合えるかなと思ってたんだけど」


「べ、別にそんなに可愛くないけど。超絶美少女仁泉先輩の前では無力だし」


 仁泉先輩の可愛さは圧倒的だ。言葉の通り、仁泉先輩の姿を見ていると同性でもなにかこう、くすぐられる部分がある。


「水菜も十分可愛い。自信持って」


「あ、ありがと……」


「あとこれ、あげる」


 脈絡もなく急に史織が渡してきたのはボールペンだった。なぜ私にボールペンを?

 誕生日でもないし、史織に何かをあげた記憶もないのでお返しという訳でもない。


「え、何これ、消せるタイプのボールペン?」


「うん。しかも三色。お守りだと思って持ってて」


「いや申し訳ないって。一色のならもらったかもしれないけど三色のは流石に貰えないよ。だから史織が自分で使って」


「一色なら簡単にもらったのかと突っ込みたくなったけど気にしないでおくね。そのペン落とし物箱に入ってて、落とし主が見つからないまま時間が経って先生に持っていっていいよって言われたやつだから」


「そ、そうなんだ」


「うん」


「ありがと」


 そう言って史織は私にボールペンを渡すだけ渡して自分の席へ戻っていった。

 渡すというよりは押し付ける形に近かったような気もする。


 なぜあんなにグイグイボールペンを渡してきたんだ?

 もしかして私に恨みがあって呪いがかかったボールペンを渡してきたとか⁉︎


……いや、史織に限ってそんな事はないか。そんな事をする子なら最初から仲良くなっていないだろうし。


「あ、言い忘れてた」


「は、はいっ⁉︎ ちょっと気配消して近づかないでよ……」


「ごめん。今日バイトないでしょ? 放課後図書室でテストの勉強してかない?」


「分かった。じゃあ放課後ね」


 掴みどころがないどころか気配まで無い史織だったが。それでも一緒にいて居心地の良さを感じるのは史織から人間性の良さが漏れ出しているからだろう。


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