第38話 不可解なお誘い

 ティモでのバイト終わり、学校で御影先輩に話があると声をかけられた私はドリンクバーを飲みながら客席に座っていた。


 先輩が仁泉先輩を振ってから一週間が経過したが、これと言って変わった事はない。


 あれから仁泉先輩とはどうなのかと先輩に尋ねると、一言も言葉を交わしてはいないが毎日ボーッとしているように見えると言っていた。


 仁泉先輩がボーッとしている姿は私自身目にしている。

 移動教室で私が廊下を歩いていると偶然仁泉先輩の姿を見つけた。先輩に振られてかなりのショックを受けているであろう仁泉先輩はどうなっているのか気になった為、気付かれないよう隠密行動で後をつけてみる事にした。


 仁泉先輩は心なしか蹌踉めきながら歩いているように見えたので不安気に後をつけていると、案の定廊下の端にある柱に軽く衝突した。

 しかもその後、特に痛がる素振りもなく恥ずかしさから周りを確認するでもなく何事もなかったかのように自分の教室へと戻っていったのだ。


 そんな姿を見た私は流石に仁泉先輩の事が心配になった。いや、なってしまった。


 仁泉先輩の行動は誰が見ても正常なものではなかったし、私にとっては煩わしい行動ばかりだった。

 

 とはいえ、仁泉先輩も傷ついているはずだ。


 先輩が仁泉先輩を振ったことで、仁泉先輩は二人の男性から振られたような状況になっている。

 仁泉先輩に情けをかけるつもりは無いけど、加害者でもあり被害者でもある仁泉先輩の状況を鑑みると不憫に思えてしまう。


 あの姿から察するに仁泉先輩は自分から榊先輩に関わらないようにしているのだろう。私の言葉によっぽど効き目があったのだろうか。

 反省してくれているのはありがたいのだが、仁泉先輩のボーッとした姿は痛々しくさえ見えてしまい

一度声をかけてみようかなと思っていた矢先、御影先輩に話があると言われた。


 御影先輩からお誘いを受けるのは初めての事だったので、疑問に思いながらも私はバイトが終わりにこうして客席に座っていると言う訳だ。


 仕事疲れなのか気疲れなのかは分からないが、疲労が溜まっている私は机に突っ伏していた。

 御影先輩からの話というのが何なのか疑問に思いながらも、考えるのも疲れるので何も考えずに突っ伏していると足音が近づいてきて私の前で止まった。


「もう、バイト終わりの後輩待たせて遅れて登場ってどういう……。え、誰?」


 私が座っている席の横に立っていたのは私と同じ高校の制服を着た女の子だった。しかも二人。名札の色を見るに先輩と同級生である事が伺える。


「よっす‼︎」


 な、何だこのちんちくりんで可愛らしい人は。いや、私が言えた事じゃないけど。それにこの人先輩だし。


「よ、よっす?」


「お邪魔します。まだ壮は来てないみたいだけど」


 もう一人の女子生徒は幼児体型のちんちくりん先輩とは違って大人びた雰囲気の人だ。

 え、というか御影先輩の事呼び捨て? この人は御影先輩とどのような関係なのだろうか。


「あ、遅れてすまん。もう来てたか」


「遅い、私が壮より、先にこの場に来たら微妙な感じになるって分かんないの?」


「ごめんごめん」


 御影先輩はどちらかと言えば人をおちょくり回して笑みを浮かべてるような人なのだが、この凛とした女子生徒の前ではそういう態度は取らないようだ。


「真野は誰か分かんないだろ? 写真とか見せた事なかったけど、こいつ俺の彼女」


「え、マジですか⁉︎ この方が?」


「そうそう。梨沙って言うんだけどな」


「こんなしっかりした感じの人と付き合ってるなんて意外です」


「そんな事ないだろ。ちゃらんぽらんな俺を導いてくれるって意味ではお似合いの二人だろ?」


「他力本願が凄いですね……」


「他力本願ではない。協力してもらってるだけだ。それで梨沙と茜ちゃんに来てもらったのは真野にお願いしたいことがあるからなんだけど……」


 御影先輩の言うお願いがどのようなものかは分からないが、それが私にとってプラスなお願いではないという事はこの場の雰囲気でなんとなく察する事ができた。

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