第39話 馬鹿な行動
御影先輩が彼女を連れてくるとは思っていなかったが、なぜ御影先輩は私と彼女、茜先輩を会わせたのだろうか。
最初は初めて会う先輩二人に緊張しており上手く頭が回らなかったが、初めて会う先輩が私にお願いがあるとすればそれは間違いなく仁泉先輩の話だろう。
「急に呼び出してごめんね。ちょっと話がしたくて」
仁泉先輩にも負けず劣らずの美人さに目を奪われるが、どうせ仁泉先輩の話なのだろうと身構える。
「話ってなんでしょうか」
「結衣の事、真野さんには本当に申し訳ないと思ってる」
仁泉先輩の事を謝罪するとなるとこの人たちは仁泉先輩の友達なのだろう。
仁泉先輩の行動は確かに気に食わない部分もあったが、仁泉先輩の現在の姿を見た私はその姿を痛々しいと思うくらいなので、怒りよりも今は心配の方が強いのだと思う。
「私からも謝らせてもらうね。ゆいゆいも悪い子じゃないんだよ。ちょっと周りが見えなくなっちゃってたみたいなんだけど……。ごめんね」
なんだこの人、ちっこ可愛いな。あ、二回目か。いや、だから私も小さいだろうが。
「いえ、別に気にしてないので」
「結衣も悪いんだけどね、けしかけたのは私みたいなところがあるから……。結衣はもう謝ってるのかもしれないけど、私からもしっかり謝罪をしておきたくて」
見た目通りの誠実な人だ。とても綺麗だしこれほど誠実な人が御影先輩みたいなおふざけが過ぎる人と付き合っているとは信じ難い。
「わざわざありがとうございます。でも本当に気にしてないですから。むしろ最近の仁泉先輩の方が気になっちゃって……」
「真野さんも最近の結衣の様子を知ってるの?」
「は、はい。この前廊下でぼーっとしながら歩いて柱にぶつかってるところは見かけました」
「そっか……。実はね、今日真野さんを呼んだのには謝罪以外にもう一つ理由があるの。もちろん謝罪が一番の目的だったんだけどね」
もう一つのお願いとやらは恐らく言い出しづらい事なのだろう。でなければこれ程ばつが悪そうに話はしない。
というか謝罪に来た身で厚かましいな‼︎ 恨んでいないとは言っても、百パーセント許したかと言われればそういう訳ではないんだけど。
「お願い、ですか」
「ええ。……もしよかったら、結衣と一緒にここでバイトしてくれない?」
……は? 私がここで仁泉先輩と? 一緒に?
なんの義理があってそこまでしなくてはならないのだろうか。
直接的ではないにしろ、私が悲しんだ遠因は仁泉先輩にある。仁泉先輩が先輩をたぶらかさなければ私は悲しまずに済んだのだ。いや、まぁたぶらかされる先輩にも問題はあるけど。
とはいえ、流石の私にも仁泉先輩に対して多少なりの罪悪感はある。
そもそも先輩が坂井として仁泉先輩に告白された時にそれを断っていればここまで話が大きくなる事はなかった訳で、全責任が仁泉先輩にあるかというとそうではない。
加害者でもあり、被害者でもある仁泉先輩なので、手を差し伸べてあげたいという思いはあった。
「……嫌です」
先輩のお願いは後輩からすれば断らづらいものだが、私は自然と拒否していた。
仁泉先輩をあのままの状態で放ったらかしにしておいていいのかと私の良心が問いかけではきたが、それでもそのお願いは容認出来るものではなかった。
「……そうよね。分かった」
「え、いいんですか?」
「もちろん。最初から厚かましいお願いだって事は分かってたし。まぁ分かっていながらそれをお願いする私たちも卑怯だなぁとは思うけど」
梨沙先輩は思ったよりも呆気なくお願いを諦め、そのまま荷物をまとめ席を立った。
「--待ってください」
私は思わず御影先輩たちを引き止める。
ここで引き留めるなんて馬鹿のやる事だ。このまま仁泉先輩が先輩に近づかなければ私が先輩と上手くいく確率は格段に上がるだろう。
この行動は間違っている、それを理解しながらも止まれない自分がいた。
「や、やっぱり仁泉先輩に声をかけてみます。そりゃ好ましくはないですけど、まあ同じ人を好きになった好みというかなんというか……」
「無理はしなくていいのよ?」
「無理してるに決まってるじゃないですか。でも、これで私が先輩と付き合えたとしても私は納得出来ないと思うんです」
仁泉先輩をこのままにしておくのは確かに納得出来ないが、これで自分にとって最悪の結果になったとしたらそれはそれで納得出来ないのだろう。
同じ轍を踏む事にならなければいいが……。
「……ありがと。まさか了承してもらえるとは思わなかったから驚いたわ」
「まぁ了承って言うよりは譲歩に近いですけど。仁泉先輩をバイトに誘う事に納得した訳じゃありませんし、見返りもないのによくこんな馬鹿な事するなって思います」
「そうよね。実は私たちとしても真野さんにメリット無しでお願いするつもりは無いわ」
「--え?」
「結衣をバイトに誘ってくれたら壮が真野さんと榊くんの事、全力でサポートします」
梨沙先輩の言葉を聞いて私は無言で顔を御影先輩の方に向けた。
「よろしくな」
ニカっと笑う御影先輩の様子から、この見返りは最初から決まっていた事が窺える。
「え、でもそれだと仁泉先輩が榊先輩と付き合えなくなっちゃいますよ?」
「いいのよ。結衣と榊をどうにかしようとは全く考えてない。とにかく結衣が元気になってくれる事が一番だから」
「そうなんですか。……というか私がお願いを受け入れてからメリット話すって性格悪過ぎませんか⁉︎」
こうして私は明日、仁泉先輩に声をかける事になった見返りに御影先輩に榊先輩と付き合うお手伝いをしてもらう事になった。
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