第27話 真っ向勝負

 放課後、私は学校の中庭に来ていた。


 先輩と一緒に弁当を食べるときにしか足を運ぶ事がなく、それ以外の用事で中庭に居るという事自体が珍しいのだが、私の目の前には仁泉先輩が立っており更に珍しい状況となっている。


 中庭で偶然仁泉先輩と一緒になったという訳ではなく、私の方から仁泉先輩を放課後の中庭に呼び出した。

 放課後になれば他の生徒は部活に行くため中庭に来る人はまずいない。ここでなら私の言いたい事を思いっきり言うことが出来る。


「どうしたの? 初めましてだけど」


「仁泉先輩。ストレートに言わせてもらいます。これ以上榊先輩に関わるのはやめてください」


 回りくどく説得するのは私の性分では無い。こういうのは真っ向勝負が一番だ。……うん、カッコ良く言ってはみたけど、要するに遠回しにこの複雑な気持ちを正確に伝えられるだけの語彙力が私には無い。


「坂井くんと同じバイト先の真野さん……だよね。史桜くんに関わるのをやめてくれっていうのはどういうこと?」


 仁泉先輩からしたら一言も話したことがない、関わった事もない後輩から榊先輩と話すなと言われても訳が分からないだろう。だからと言って私の方から詳しく説明してやる義理はないし申し訳ないなんて思わない。


 こちとらあんたのせいで色々悩まされてんだからなこのどちゃクソ美人が‼︎ あ、仁泉先輩の事褒めたわ私。

 悔しい事ではあるが、敵意剥き出しの私が思わず褒めてしまう程仁泉先輩は可愛いという事なのだろう。

 

「私、榊先輩が好きなんです。彼氏持ちの仁泉先輩に榊先輩をたぶらかされるのは迷惑なんですよ」


「べ、別にたぶらかしてなんか……」


「たぶらかしてるんです!!」


 私が大声で言葉を返すと仁泉先輩は体をビクっと強張らせた。そして感情的になってしまった私の目からは自然と涙が溢れ落ちていた。


「私は先輩とバイトで一緒になった頃から先輩の事がずっと好きなんです‼︎ いつまでたっても思いを伝えられなかった私も悪いかもしれませんが急に出てきた仁泉先輩のせいで私がどれだけ惨めで辛い思いをしたと思ってるんですか!!」


 これまで溜まりに溜まってきた想いが溢れ出る。


 仁泉先輩は一応先輩なので生意気な口を聞くのはよろしくないのだが、それでも私の正直な思いは堰き止められることなく溢れ続けた。


「……え、ちょっと待って」


「ちょっと待ってじゃないですよ‼︎ 今は彼氏がいるんでしょ? それなら昨日なんで榊先輩と二人でカフェなんか行ってたんですか‼︎ たぶらかしてる以外の何者でもないじゃないですか‼︎」


「いや、あのさ、確かに彼氏がいる私が榊くんをカフェに誘った事で史桜くんの事が好きなあなたを悲しませてしまったのは申し訳ないと思うんだけど、今史桜くんと一緒にバイトしてるって言った?」


「……え?」


 やっちゃったわこれ。感情的になりすぎて口を滑らしてしまった。確かに私は、先輩一緒にバイトを始めた頃から、と口走っている。


 どう誤魔化したものか……。


「史桜くん、バイトしてるとは言ってたけどさ。まさか榊くんもティモでバイトを? いや、でもティモに行ってた時に史桜くんがバイトしてるところなんて見たことなんてないし……」


「たまーに、たまーにティモでバイトしてるんですよ‼︎ 月一回とかそんなペースで」


「……なるほど。まぁそれなら違和感もないか。いや、でももう少し高頻度でバイトしてたような……。ティモ以外でもバイトしてたのかな」


 危なかったぁ。これで坂井先輩が実は榊先輩なのだとバレてしまったら私が先輩に嫌われる可能性もある。そうなってしまっては本末転倒なので、気付かれずに済んでよかった。


 仁泉先輩が頭の中お花畑な人でよかったわぁ。


「そうとは知らずに嫌な思いさせちゃってたんだね。私、あなたの気持ちにはうっすら気づいていたの。榊くんと一緒にお昼ご飯食べてるみたいだったし、仲良さそうにしてたから」


 私の作戦通り、私が先輩と弁当を食べている事はしっかりと広まっているようだ。


「私の気持ちに気づいてたなら尚更榊先輩とは関わらないで下さいよ。まあ過ぎたことですしもういいですけど。とにかくあなたはもう榊先輩には関わらないでください。まだ榊先輩のことが好きだからって今の彼氏と仮に別れたとしても、もうあなたには榊先輩と付き合う権利はありませんので。それじゃあ」


「え、ちょっと……」


 私は自分の言いたい事を言うだけ言ってその場から立ち去った。引き止められたって何も答えてやらない。


 そのままずっと悩めばいいんだ。私は今まで散々仁泉先輩に悩まされてきたのだから、私になってそれくらいする権利はある。


 後ろから聞こえる仁泉先輩の声を無視して私はそのまま学校を後にした。

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