第36話 家で二人きり
真野ママが食後のデザートを買いに行くと言って外出し、俺と水菜は2人きりになった。
いたらいたで恥ずかしいし二人にしてほしいと思だていたが、いなくなったらいなくなったで帰ってきてほしいと思ってしまう。
水菜の家で二人きりになった俺は緊張してしまいしばらく椅子に座ったまま固まっていた。
「すいません本当、ウチのママ変な人なので……」
自分の親があんな感じの人で、先輩に迷惑をかけていたとすればそりゃ申し訳なくもなるだろうな。
しかし、俺からしたら真野ママは元気で良いお母さんくらいにしか思っておらず、迷惑などとは微塵も思っていない。
なんなら俺の母さんになってくんねぇかな美人だし。
「いや全然。話しやすいし良いお母さんだった。それより、なんで今日俺家に呼ばれたの?」
俺は今日水菜の家に呼ばれた理由をまだ知らない。
屋上で急に家に来ないかと誘われた時は固まってしまい何も尋ねることが出来なかったので、その理由が気になって仕方がなかった。
水菜が俺のことを好きだと言ってくれてたのを偶然聞いてしまった事もあり、もしかしたら告白とか、告白とか、告白とか、告白とか。もしくはそれ以上とか……。
流石にそれ以上は冗談だとして、水菜から俺に対する告白はあり得るのではないかと考えていた。
水菜が俺のことを好きだと言ってくれた言葉を詳しくは覚えていないが、好きだと言ってくれた事に間違いはない。それなら俺が結衣を振った今がチャンスだと思うのではないだろうか。
そうなったら俺はどうしたいのかという事をずっと考えていたが、答えがまとまらないまま今日を迎えてしまった。
仮に水菜から告白されたら俺はその告白をオッケーするのだろうか。
ここまで来たらその場の判断に任せるしかない。
「今日先輩を呼んだのは結衣先輩を振ったお祝いみたいなもんですね。祝勝会的な」
「振る事をお祝いとしていいのかどうかって事に関しては触れないでおくわ。あと別に誰かと勝負してた訳でもないから祝勝会ってのもなんか違和感あるな」
「何言ってるんですか。先輩は自分に勝ったんですよ」
水菜の言葉を聞いて、なるほどな、と思うのはやはり俺が水菜を尊敬しているからだろう。自分に勝ったと思うと自然と心が晴れた。
というか、今日の目的は本当にただの祝勝会なのだろうか。俺を家に呼ぶ理由としては少し弱いような気もする。
え、なんか否定ばっかしてたら俺、水菜から告白されたい人みたいになってきたな。
ってことは水菜と付き合いたいと思ってるって事か? 俺は水菜が好きだって事になるのか?
「……水菜って俺の事好きなの?」
--あれ、なんか今とんでもない事口走ったよね俺⁉︎
今日の目的や水菜の意図を考えれば考えるほど整理は付かず、思わぬことを口にしてしまった。
自分で自分の事を好きかどうか尋ねるやつの事なんか好きになる訳がない。
今この状況で狼狽えるわけにはいかない。吐いてしまった言葉は元に戻すことはできないし、冷静を装え俺。取り乱したら最後、死んでしまうぞ‼︎
「あ、いや、その、勘違いとか妄想とかそういうのではなくて、水菜が中庭で結衣と話してる声が偶然通りかかったときに聞こえてきて……。そん時に俺のことが好きだって部分だけ聞こえてきたから」
「はい。いいましたよ? 先輩として好きだって」
……。
なるほど、先輩として俺の事が好きだと。それはあれだな。友達としてはあなたの事が好きだけど、恋愛対象ではないですって事か。
冷静になれよ、落ち着け俺。こういう時に取り乱さないのが大人の対応ってやつだ。
災害発生時も焦らずゆっくり歩いて避難しろって言うだろ? だから焦るな俺。落ち着くんだ俺。
ウワアアアアアアアアアァァァァァァァァ‼︎
「そういう事か。オケ」
「はい。仁泉先輩を中々振れなかったチキンなところは置いておいて、優しかったり時々頼りがいがあったりするところは好きですから。私の好きな先輩をこれ以上困らさないでくださいーって言ってやったんですよ」
「優しくもないし頼りがいもないけどな」
「あれ、先輩顔赤くないですか? 何勘違いしてたんですか?」
先程の仕返しと言わんばかりにしたり顔で俺に詰め寄る水菜。
俺はただただ顔を熱らせたじろぐしかなかった。
こういう類の勘違いにだけは細心の注意払っていたはずなのに……。
それからしばらく水菜と会話を続けていると、真野ママが帰宅し俺は黙々とデザートを食べ進めた。
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