第35話 水菜の家
えーっと、なんで俺は水菜の家のリビングで水菜とそのお母さんと一緒にご飯を食べているのでしょうか。
今日は水菜に家に呼ばれたので、まぁ二人で何か大事な話をしたりするのかと思っていたのだが、まさかお母さんを含めて三人でご飯を食べる事になるとは予想もしていなかった。
「どう? カレーだけは自信あるんだけど」
満面の笑みで俺にそう話しかける水菜ママ、いや、語呂が悪いから真野ママと呼ぼう。
リビングに置かれた四人がけのテーブル。そのキッチン側の椅子に座ってしまったのが運の尽きだった。俺の目の前には真野ママがニコニコしながら座っており視線を外すのが難しい。
俺から見て右斜め前にいる水菜の顔をチラ見すると、気まずそうに俺から視線を逸らしやがった。
せめて水菜が助けてくれないと俺どうしようもないんだけど。
唯一の助け舟が尻尾巻いて逃げるとかどういうお考えなのでしょうか一体……。
とはいえ、真野ママ作のカレーは中々に美味で、母さんのカレーが一番美味いと思い込んでいた俺は正直驚いていた。
「はい。とても美味しいです」
「そのカレー、ほとんど水菜が一人で作ったのよ」
「--え?」
このカレーを水菜が作ったと聞いて驚いたが、よく考えてみれば毎日のように美味しい弁当を作ってくれているのだからカレーが美味しい事に驚くのはお門違いだろう。
弱冠十五歳にして俺の母さんのカレーの味を超えてしまっているのだから水菜と結婚したら毎日がパラダイスだな。よし、結婚しよう。
水菜は俺がカレーの味を褒めたせいか赤面している。そんな水菜の姿を見て、目の前に真野ママがいるとはいえ俺のイタズラ心は黙っていない。
「いや、これ本当めっちゃ美味いわこれを超えるカレーとか存在しないわ天才だわ流石だわ驚いたわ」
俺が茶化すように褒め言葉を連発すると、水菜は余計に顔を赤く染めた。真野ママもいる事だし今日はこれくらいにしといてやろう。
というか真野ママ、水菜が俺に弁当作ってるの絶対知ってるよなぁ……。自分の娘が高校の先輩に毎朝弁当作ってるのって母親的にどう思うんだろ。
夫婦になってから嫁が旦那に弁当を作るのは当たり前の事だ。
いやまぁ今の時代にそんな事言ったら全国の嫁さんが黙っちゃいないだろうけど。よし、俺も結婚したら弁当作ろう。
それがカップルでもない高校生の男女となれば話は別。その不思議な関係性には誰しも疑問符を浮かべるだろう。
あーそんなこと考え出したら余計に気まずくなってきた。
「そんなに驚かないでしょ。先輩いつも私の弁当食べてるんですから」
「ああ。美味いな」
「いや、そういう事を言ってるんじゃなくて……」
「ふふっ。史桜くんは水菜を赤面させるのが上手なのね」
いや、これに関しては元はと言えばあなたが勘違いさせるような言い方したからですよ? というかもう名前呼びですかお母さん。俺もお母さんって言いながら心の中ではお義母さんって呼んじゃうぞコラ☆
「もう、いい加減にしてよ。先輩困ってるじゃんか。ほんとすいません先輩。お母さんがどうしても一緒に食べたいっていうので」
「あら、いつも通りママって呼んでくれていいのよ?」
「もうやめてって言ってるでしょー‼︎」
真野ママ、水菜の扱いが本当に上手いな。俺もこれくらい水菜の扱いが上手くなれるといいのだが。
よし、これからママ呼び冷やかそう。
「別に全然気にしてないから。家に上げてもらってご飯までいただいて、ありがたい限りだよ」
「あら、しっかりしてるのね。まぁあんまりお邪魔しても悪いし、お母さんは食後のデザートでも買ってくるわ」
あれ、真野ママいなくなっちゃうのか。水菜のお母さんってだけあって、正直告白されたら付き合えてしまうレベルに若くて可愛い真野ママがいなくなるのは少し寂しかった。
「え、ママ出てくの?」
「何よ、さっきまで邪魔者扱いしてたじゃない」
「それはそうだけど……」
「それじゃあ行ってきまーす」
そう言ってヒラヒラと手を振りながら真野ママは家を出て行き、俺と水菜は水菜の家に二人きりになった。
あれ、……二人きり?
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