第24話 カフェでの目撃

 バイト先を飛び出した私は小走りで先輩と仁泉先輩が入って行ったというカフェに向かっていた。ティモからそのカフェまでは歩いて十分程の距離なので、軽く走れば五分程で到着する。


 早く真相を知りたい一方で、御影先輩が言っていた事が正しかったらと考えると、このままいつまでも目的地のカフェに到着しなければいいのにという弱気な考えにも至っていた。

 そのせいか、急いでカフェに向かいたいはずの私は全力ダッシュではなく小走りでカフェに向かっている。


 ティモからカフェへ向かっている間も御影先輩が見たという二人の姿が嘘であってほしいと願っていた。とはいえ、御影先輩が先輩と仁泉先輩を見間違えるはずもない。

 仮に先輩だけを見間違えるならまだあり得るかもしれないが、先輩と仁泉先輩の二人を同時に見間違える可能性は限りなく低いのでその願いは叶わないだろう。


 何故榊先輩は仁泉先輩と二人でカフェに行っているのだろうか。チキンでヘタレな先輩から仁泉先輩をカフェに誘うとは考えづらい。

 となると、先輩からではなく仁泉先輩から先輩を誘った事になる。私の怒りの矛先は先輩ではなく仁泉先輩に向けられていた。


 とはいえ、先輩が仁泉先輩と二人でカフェに居るところを目撃したとしてもそこに乗り込んでいく程の勇気は無い。


 色々な考えが頭の中を駆け巡り、考えを整理出来ないまま到着してほしくなかったカフェに到着した。店の外から二人が店内にいるかどうかを恐る恐る確認する。


 頼むから二人で居ないでくれ。なんならコーヒーだけ飲んですぐにこのカフェを後にしてくれていればそんな状況を見ないで済む。知らなければ多少は幸せでいられるかもしれない。

 しかし、この状況を御影先輩から聞いてしまったからには真実を確認せずにはいられない。


 店内から私が店の外にいる事を気付かれない程度の距離で店内を確認していると、見つけてしまった。先輩と仁泉先輩が二人でカフェにいるところを。しかも、御影先輩の言っていた通り先輩は坂井としてではなく榊の姿で仁泉先輩と会っているのだ。


 先輩と仁泉先輩が二人で居るところを目撃してもその場には乗り込まないだろうとは思っていたが、その状況を目の当たりにしたら勢いで乗り込んでしまうのではないだろうかとも思っていた。


 しかし、実際その現場を目の当たりにした私は意気消沈。その場に乗り込むどころかその光景を見ることすら嫌になりすぐに顔を背けてしまった。


 二人がどんな会話をしているのかは分からないが、私の目には二人が楽しそうに会話をしているように写ってしまう。仮に喧嘩をしていたとしても二人で居るところをみたら仲睦まじく見えてしまうだろう。


 店長の心意気でせっかくバイトを休みにしてもらったというのに、意気消沈の私は結局何も行動を起こすことなくトボトボと自宅に向けて歩き始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る