第22話 放課後
今日の授業を全て熟し、一日の日程を終えた俺は帰宅しようとしていた。真野の前で仁泉を結衣と呼んでしまった時はどうなることかと思ったが、真野を水菜と呼ぶという約束を結び事なきを得た。水菜、って呼びづらいけどな……。
今日はバイトもないため、久しぶりに家でゆっくり出来る。
そう思いながらスクールバックを手に取り教室から出ようとすると、後ろから肩をポンポンっと叩かれた。
バイト先ではある程度輪を広げてる俺だが、学校では友達がいないので先生か誰かに肩を叩かれたのかと思い気を抜いて振り向いた。
「おつかれっ。一緒に帰らない?」
「--え、仁泉⁉︎」
朝に声をかけてきたのでしばらくは声をかけてこないだろうと油断していたがそれは的外れな考えだったようだ。
一緒に帰ろうと誘いを受けたが、俺が仁泉と一緒に帰宅しているところを真野に見られてしまえば真野を水菜と名前呼びしても許してもらえなくなるだろう。
それならこの誘いは断るしか……。
いや待てよ? たしか今日水菜にはバイトのシフトが入っていたはず。しかも学校が終わってから三十分後にバイトが始まるようシフトが組まれていたため水菜は急いでバイト先に向かうだろう。
てことは俺が仁泉と一緒に帰るところを水菜には見られないのではないだろうか。
……。
「予定とかあった?」
「いや、ない」
俺たちは二人で帰宅する事になった。
◇◆
いや待て、一緒に帰るだけって話だったよな? なんで俺仁泉と二人でカフェ来てんの?
仁泉から一緒に帰ろうと誘われた俺は本当に一緒に帰るだけだと思っていたのだが、校門を出たあたりのところで仁泉がカフェに行きたいと言い出した。しかもそれは俺たちが付き合っていた時に二人でよく足を運んでいたカフェである。
なんでこんな事に……。まぁ水菜には見られないだろうからいいけどさ。
「ふぅ。やっぱりここでコーヒー飲んでると落ち着くね」
「……そうだな」
いや落ち着く訳ないだろ‼︎ そんな事を言う訳にもいかないので話を合わせたがこの状況で何があったら落ち着けるというのだろうか。そうだせめて大量の睡眠薬でもあれば落ち着くかな……。いや死ぬわ。
「今日はなんでカフェに?」
「うーん、なんとなく?」
「疑問系かいな。今の彼氏とは上手く行ってるんだろ?」
「うん。そうなんだけどね……。最近思うの。本当に榊くんを振って今の彼氏と付き合うことが正解だったのかなって」
……は? 今更何を言い出すのかと思えば俺を振るのが正解だったかって?
俺を振るという選択は仁泉が決めた事だ。誰かに決められた事ならその悩みもうなづけるが自分で決めて自分で悩むのは自作自演、お門違いも甚だしい。
今は坂井と付き合っていて幸せなはずなのに何を言っているのだろうか。てか榊も振られた上に、これ事実上坂井の事も好きじゃないって事だよな? え、何この虚しい気持ちは。
「……どうだろうな。まあ仁泉が今の彼氏と幸せにやってるならそれが正解なんじゃないか」
「やっぱり榊くんは優しいね……。私とは大違いだよ」
俺は優しくなんかない。最低なだけだ。水菜には仁泉を振ると宣言しておいて実行出来ず、仁泉とは坂井として付き合っていると言うのに、それでも仁泉には俺の事を嫌いになってほしくない、好きでいてほしいと思っている。それで優しい言葉をかけているだけなのだ。
「そんなことないよ。仁泉には申し訳ない事をしたなと思ってる。俺が変に声をかけなきゃ今だって後ろめたさを感じず幸せになれたはずなのに……」
「それは違うよ‼︎ 私、あの時は本当に落ち込んでたし、榊くんに声をかけてもらってすごく嬉しかったし、助けられたの。そんな榊くんを裏切った私が悪いの」
仁泉は本当に悪くない。悪いのは全面的に俺だ。
それなのに、自分を責める仁泉にかける言葉はどれだけ探しても見当たらなかった。
「私ね、決めた」
「どうした?」
「史桜くんとどうにかなりたいとか、そんな厚かましいことは言えないけど……。今の彼氏の事振る」
「……は?」
仁泉が口走った言葉の意味はよく分からないが、一つだけ確かに分かったことがある。
はい、正式に坂井も振られましたとさ。
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