第20話 気の緩み
仁泉から声をかけられた後、何故声をかけられたのかを考えているうちにいつのまにか昼休みになっていた。どれだけ考えても仁泉の考えている事が分かるはずもなく授業に集中出来なかった。そのせいで一番前の席に座っているにも関わらず居眠りをしてしまい先生から頭を小突かれた。あ、仁泉じゃなくて結衣って呼ぶんだったか。
貴重なお昼休みも悩んで過ごすのはもったいないので気持ちをリセットし、真野と弁当を食べるために中庭向かった。
中庭に到着すると、真野はすでにベンチに座りスマホを弄っていた。
真野ってやっぱめっちゃ可愛いよなぁ。俺が一年生の教室に真野を呼び出しに行って男子生徒から睨まれるのも頷ける。可愛くて性格も良い真野とバイト先が同じってだけで関わりを持てて本当に良かったと思う。
真野がいなかったら結衣を振る決心も出来ていないだろう。っま、結局振れてないんだけどね。
「おつかれ」
「あ、先輩遅いですよ。集合するときは女の子より早く来るものです」
すまん、と一言だけ謝った俺はベンチに座り真野の弁当を食べ始めた。
「それで、これからどうするんですか? まぁこの前のデートで仁泉先輩を振れなかったんならこの先もしばらくは振れないと思いますけど」
「そこは、先輩ならできます‼︎ って励ますとこじゃない? 励まされないと禿げるんですけど」
「あー、ダジャレも面白くない上に本当に禿げたら終わりです。救いようがありません、もう先輩の前に良い人は現れません」
「え、ただの冗談なんだけどなにその過敏な反応冷たいっ」
真野の言葉に対して冗談でこうは言っているものの、実際早く振れと急かされるより真野の様にゆっくり待ってくれている方が俺としてはありがたかった。
変に急かされると気持ちが焦ってしまい余計に結衣を振りづらくなってしまう。仮に真野が俺の事を考えて急かす訳ではなくゆっくり待とうとしてくれているのだとしたら、どれだけ出来た後輩なのだろうか、好き。
「先輩は学校では仁泉先輩ともうほとんど関わりはないんですか?」
「ない……よ?」
真野からの質問に、「ない」と即答しようとした瞬間、今朝結衣に声をかけられた事を思い出した俺はしばらく言葉を詰まらせた。言葉を詰まらせている間に俺の頭はフル回転し何が最善の回答なのかを考えた結果、結衣と今朝話した事は言わないでおくことにした。
実際問題結衣に振られてから今日まで、結衣との関わりは無かった。せめて真野のその質問が昨日の俺にされていたのなら自信を持ってないと言い切れたのだが……。ま、今日一方的に向こうから話しかけられただけだし関わりはないと言っても嘘では無いだろう(嘘)。
「あるんですね」
……まぁそりゃ気付かれるよね。真野の質問に対する返答に変に間を作ってしまったし。これはもう嘘をつく訳には行かないな。
てか頭の中では仁泉の事を結衣って呼んでるけど、真野の前では絶対に結衣と言わない様に気をつけなければ。
「あるというか、今朝仁泉と別れてから初めて仁泉の方から声をかけてきたんだよ」
「……へぇ。どんな話しするんですか?」
「俺が土日の仁泉と真野とのデートに疲れて机に突っ伏してたら大丈夫かって声かけてくれただけだよ」
「べ、別に私とのはデートではないですけどやめてください勘違いが酷すぎます」
真野ってやっぱ俺の事嫌いだよね口調きつくない?
とは言ったものの、きつい口調に相反して何やら真野の機嫌は悪くなさそうだ。どっかに落ちてた百円玉でも拾ったかネコババだぞそれ犯罪だからな。
「デートみたいなもんじゃないか。男女二人でカフェなんて行ってたら」
「で、デートだなんてそんな。二人で行っただけじゃデートにはならないですよ」
あれ、なんでだろう真野が怒らない。俺が冗談を言うと普段はキモいとか臭いとかって罵ってくるのに。あれ、キモいより臭いの方がメンタルくるな。
「男女二人でカフェ入ってタピオカ飲んでたらデートだろ、いや俺は飲んでないけど一方的に奢らされてただけだけど」
「だ、だからデートじゃないですってぇ」
あ、分かった。コイツ、さては五百円玉拾ったな‼︎ ネコババだぞそれ‼︎ だからそんなに機嫌がいいのか。
「まぁ結衣と付き合ってる以上、真野とのデートは出来ないんだけどな」
「--結衣?」
あ、調子乗ったわ俺。南無三。
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