第3話 激動の一週間

 結衣の恋愛相談を聞く会は半月程続き、相談の内容は恋愛の話だけには収まらず、学校での出来事や家族との喧嘩の話など多岐に渡っていた。


 俺たちは今日も二人でカフェに来て、恋愛相談という名の雑談を繰り広げている。


「いやー本当榊くんって面白いね」

「別に面白くないだろ。普通に話してるだけだし」


 俺の話は結衣のツボにハマっているようで、俺が何かを話すと結衣はすぐに笑い出す。最初は作り笑いかとも思ったが、腹を抱えて苦しそうに笑い、挙げ句の果てには涙まで流しだすもんだからその笑いが嘘ではない事を理解した。

 いや幸せすぎだろ俺。こんな幸せな日々がやって来るなんて思ってなかったんだけど。


 この時間がいつまでも続けばいいのに……。そう思っていた矢先、結衣はとんでもない事を言い始めた。


「あのさー、私たち付き合わない?」


「……は? 付き合う?」


 うん、とんでもない。いい方向のとんでもなさだけど、とんでもない話である事に変わりはない。


 え、これは結衣が俺と恋人になりたいと言ってるって解釈でいいのか? 


 ダメだ‼︎ 騙されるな俺‼︎ 不用意に隙を見せてはいけない‼︎ これはきっとあれだ。ありがちな展開だけど買い物に付き合えとかそういう事だろ絶対。それにしては告白っぽい文言だったたけど。


「うん。付き合わない?」


「何に付き合えばいい? 買い物か? テスト勉強か?」

「いや、恋人にならない? って言ってるんだけど」


「……恋人?」


「うん。恋人」


「……こ、恋人⁉︎」


 これは間違いなく告白だ。結衣が俺に告白をしてくるだなんて信じられないが、結衣は俺と恋人になりたいと言っているのだ。

 いや、「ならない?」って疑問系だから「なりたい」とは違うのか。それか友達との賭けに負けて罰ゲームで告白させられてるとか? でも結衣がそんな事をするような人間には思えない。


「何回も言ってるんだけど」


「いや、そ、そりゃ嬉しい……けど、俺なんかのどこがいいんだ?」


「私が落ち込んでるの、すぐに気が付いてくれて声かけてくれたのって親友の梨沙と榊くんだけだったの。仲良くしてる友達はたくさんいるんだけど、上辺だけの関係なんだなって思って」


「……え、それだけ?」


「女の子はちょっと優しくされるとその人の事が気になり出すもんなんだよ」


 やはり結衣が俺の事を好きだというのは本気らしい。しかし、未だに結衣が俺の事を好きだという事実を受け入れられない。

 ……あ、でも気にする事ないか。仮にこれが罰ゲームとかそういう類のものだとして、結衣からしたら罰ゲームだったとしても、俺からしたらご褒美だもんな。それならこの告白は本当の告白だと受け入れるのが最適解なのではないだろうか。


「そんなもんか」


「うん。そんなもんだよ」


「……俺でいいのか?」


「榊くんがいいの」


「じゃあ……。よろしく頼む」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして俺と結衣は付き合う事になり、めでたく恋人になった。




 ◇◆




「はい、俺、彼女出来ました」


「はいはい。夢見てないで仕事する」


 俺の発言を戯言だと言わんばかりに受け流す真野。学校での俺を知っている真野なら俺に彼女が出来たという事実は信じがたい話だろうが、事実だと理解してもらうために俺は話を続けた。


「いや、彼女欲しすぎて頭おかしくなったとかじゃないから。本当に彼女出来たんだって」


「ふーん。学校の人ですか?」


「おう」


「本当だっていうなら彼女さんの名前を明かしてもらいましょうか」


 そういえば俺が結衣と付き合った話を他の人にしてもいいのだろうか? 結衣から俺たちが付き合った話をしていいと言われた訳ではないが、ダメとも言われた訳でもない。ま、いっか別に。何より自慢したいめっちゃ自慢したい。


「同じクラスの仁泉結衣って子」


「……はぁ。やっぱり嘘じゃないですか。仁泉先輩って言ったら私たちの学校で一番モテる超絶美少女ですよ? 何があったら先輩がそんな人と付き合えるってんですか」


 真野が信じられないのも無理はないか。真野の言う通り、結衣は学校の中でも評判の美少女だ。そんな結衣と陰キャの俺が付き合っていると言われても信じられる訳がない。無理して真野に信じてもらわなければならない理由(めっちゃ自慢したい)も無いしもう諦めるか……。


「本当なんだけどなあ」


「そんなにいうならツーショット写真でも見せてくれれば信じますけど。それくらい見せてもらわないと困ります」


「ほれ、ツーショット写真」


「--え?」


 丁度この前、結衣に言われるがままカフェでツーショット写真を撮っており、その写真が後からラインで俺に向けて送られてきた。初めての女子とのツーショット写真を見て恥ずかしくなりながらも、結局アルバムに保存したのだ。それ以来その写真に写った仁泉を舐め回すように眺めてるのは内緒。


「……本当ですね。これは間違いなく先輩と仁泉先輩です」


「だから言ったろ? 付き合ってるって」


「……いや、これだけではまだ信じられないです」


 俺が結衣と付き合っているのが信じられないのは分かるが、まさか真野がここまで疑り深いとは……。もう流石にどうしようもないかと諦めた瞬間、写真を見せるために真野に渡していたスマホからテレレンっと通知音がなりラインが入ってきた。


『バイト頑張ってね‼︎』


 ラインの送り主は結衣だった。


「ま、マジですか」


「マジ中のマジだ」


「流石に今の通知を見せたら信じない訳にはいかないですね」


 ナイスタイミングすぎるだろ。可愛くて運動が出来て勉強も出来て空気も読めるなんて完璧じゃないか。あー結衣マジ天使。


「まさか先輩が仁泉先輩と付き合うとは思ってませんでした」


「俺自身驚いてるからな」


「先輩の魅力に気づいている人が他にもいるなんて……」


「ん? なんか言ったか?」


「何でもありません」


 最初は俺の言う事を信じてもらえず真野から疑われてしまったが、何とか真野に俺が結衣と付き合っている事を信じてもらう事に成功した。




 ◇◆




「ごめん……。やっぱり前の人が忘れられなくて……」


 うん、知ってた。知ってたけどそんな事って……。


 真野に結衣と付き合っている事を報告して一週間が経過した頃、俺は突然結衣から別れを告げられた。

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