海外ドラマ "Person of Interest"
世間では Midjourney や Stable Difusion、ChatGPT など、AIを使ったサービスやツールで連日賑わっていますね。個人的に見ていて興味深いのは、小説を書いている人たちは ChatGPT には概ね好意的で、執筆の補助(あらすじのリファインや成果物を褒めてもらう)に役立てている人が多い一方で、画像系のツールやサービスは物議を醸すなどなかなか難しい状況のようです。
小説に関してはそもそも読み手が作品を理解するために、読む時間をある程度長く取る必要があるのに対し、イラストは出力された成果物が完成品となり、瞬間的に理解できるという違いがあるのも大きいのかもしれません。既存の画像を加工しただけのものをAIの成果物といっているような不当利用(+悪意のある行為)が目立ってしまうのも。
ともあれ、技術が進歩することで、それまで一部の高度な職人にしかできなかったことへの参入障壁が下がり大衆化する。その一方で、磨き抜かれた技術からこそ生まれるものが失われていってしまう、というのは長い歴史の中でも繰り返し起きてきたことではあるのでしょうが、この辺りは早期に法整備が進み、アーティストや著作権者の権利が正しく守られることが望まれます。
加えて、現在多くの人が漠として感じている不安は、今まで人にしかできなかった「思考する、人と対話する、フィジカルな技術を要求されていたものが機械に置き換えられてしまう」というもっとずっと後になって起きると思われていたことがいきなり始まってしまったことなのかな、という気もしています。
ところで、決断、判断をする機構として、AIと人との大きな違いはなんだと思いますか? 私は個人的には心があるかないか、だと思っています。だからこそ、以前はカウンセリングなどの高度に人の心を理解する必要がある職業は、このあともずっと続いていく、と言われていました。個人的にはその考え方には懐疑的です。
機械には心がないからこそ、冷静に対処できます。例えばあなたの友人が何かに悩んでいるとします。ろくでもない男と付き合っていて、別れてもまたそういう男に引っかかって問題を抱えてしまう。あなたがとても心優しい人ならば、親身になってその話を聞いて、対処してあげるかもしれません。
私はどちらかといえばめんどくさいなあと思って雑な対応をするか、距離を置いてしまう気がします。
けれどAIはきっと丁寧に彼または彼女の話を聞き、どうしたらその状況を抜け出せるか、どうすれば彼女にとっての幸せを見つけられるかを彼女が満足するまで相談に乗ってくれるでしょう。
今すぐには無理かも知れませんが、例えば現在カウンセリングで行われてる手法全てがデータとして登録されるようになり、相談者の個人情報、行動履歴の全てが登録・考慮されるようになれば、疲れ知らずで感情ノイズのない機械はかなり良い相談相手になってくれると思います。もちろんそのためには膨大なデータが必要ですが。
と前置きが長くなりましたが、Person of Interest はアメリカのCBSで放映されていた海外ドラマです。主人公のジョン・リースは元CIAのエージェントですが、とあることをきっかけに自暴自棄な生活を送るようになります。
浮浪者のような格好で電車に乗っていたところを地元のチンピラじみた若者たちに襲われるも返り討ちにしてしまい、逮捕されることに。釈放された後、とあるホテルで、女性が襲われる悲鳴を聞き、隣の部屋に踏み込んでみると、そこには一人の妙な男がいて——。
キーファクターとなるのが9.11の後、テロ事件を防止するために作られた「マシン」というAI。マシンはアメリカの国家安全保障局(NSA)のデータを全て読み込み、アメリカ国内のすべての監視カメラや個人の携帯その他の個人情報を監視し、テロに関わっている可能性のある人間の社会保障番号を弾き出すシステムです。
開発者のフィンチはこのシステムにバックドアを仕込み「テロとは無関係」とされながらも、何か危機に関わると検知された人物の社会保障番号を、公衆電話を通じて通知する仕組みを作り、リースと共にその人物(もしくはその被害者)を救っていきます。
ここで重要なのは、マシンが弾き出すのはあくまでも社会保障番号のみで、実際にその人物が犯罪の被害者なのか、あるいは加害者なのかも不明のままのブラックボックスなシステムになっています。これは開発者のフィンチの「人を裁くためには人が調査、判断を行わなければならない」という思想が反映されているためです。つまりAIに判断を任せない、という。
一方で後半に登場する「サマリタン」というAIはオープンシステムとなり、どの人物がどういう理由で危険なのかを明示的に指定します。
興味深いのは政府がサマリタンを採用した結果、マシンを使用していた時よりもテロ、犯罪検挙率は上がり、確かに平和になっていくように見えます。
サマリタンの目的はアメリカ国内のテロを未然に防ぎ、反乱分子を暴き平和を保つことです。その目的のために、最適な行動をとります。
選挙活動中にとあるエリアの電話を不通にすることで、対立候補を落選させたり、恵まれない子供達にタブレットを寄付する活動家を支援するふりをして、自ら子供たちを教育しようとしたり。
やがて、政府に逆らう者たちだけでなく、サマリタンの活動を阻害する政府関係者さえも目的のために排除されていきます。世界中のデータを処理し、ほとんど予知並に正確に未来を予測できるAIが大きな力を持ち、直接的に人を裁く時、そこに人間の自由意志は——限定的にしろ——許されない。
なぜなら、感情に揺り動かされ、自分の利益を追求してしまう人間に任せておいては世界はいつまで経っても平和にはならないからです。
「ターミネーター」や伊藤計劃の『ハーモニー』を読んだ方ならピンとくると思うのですが、もっと解像度が高くほとんどリアルに感じられる見事なドラマでした。
最強のAI相手にどう人間が戦うのか。そしてマシンが弾き出していた「
今この時だからこそ、色々考えてしまうおすすめのシリーズです。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」
制作総指揮:J・J・エイブラムス
主演:ジム・カヴィーゼル、マイケル・エマーソン
ちなみに主演のジム・カヴィーゼルがめっちゃイケメンなのでそれだけでも本当におすすめです。赤ちゃんをエルゴ抱っこしてる回とかハイパー可愛いし!
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