物語の終わり
このエッセイの最初のエピソード「物語を書くということ」を書いたきっかけとなった物語「Somewhere, Nowhere 〜ここではないどこかへ〜」は、様々な紆余曲折がありつつも、十月末に本編が完結しました。
そのエッセイを書いたのが令和二年十月二十五日、完結したのが十月三十一日なので、自分でも振り返ると、どこが「書くこと」がゆっくりになったんだろう……と、首を傾げてしまうのですが、あえて「自分が好きなものを書いている」「物語が書けないのならば、他のことを書いてみる」ということをはっきりと自分に宣言することで、却ってすっきりしてその先を書くことができたようです。
それから、どうにも収まりがつかなかった登場人物の物語をスピンオフとして、また、本編の流れとしては番外編をいくつか書くことで、一通り本当の意味で物語が終わりを迎えたようです。
そうして最近、なんだか心にぽっかりと穴が空いたように感じて、それが何だろうと考えていたのですが、どうやら物語が完結してしまったことで、いわゆる「ロス」の状態になっているようだと気づきました。
私は、詳細を詰めてから書くということが得意ではないので、始まりと終わりだけをとりあえずざっくりと考えて、あとは登場人物たちがそれぞれどのように考えて動くだろうか、ということを意識しながら書いてきます。
それは、その物語が「私自身が読んでみたいもの」であることがまず第一にあり、予め詳細を詰めて、全ての展開が決まってしまっているものは、自分自身が興味を失ってしまいそうな気がするせいかもしれません。細部まで結末のわかっている物語をあえて読みたいとは思わない、というか。
だからこそ、あとで迷いが出てきてしまったりもするわけですが。
書いている間は、登場人物の心情にかなり
ともあれ、そんな風に登場人物たちの目で物語の中の世界を見て、その視点で他の登場人物たちとの関わり合いを描いていると、その世界にどっぷりと浸ることになります。本編が完結する頃には、彼らが愛おしく、そうして困難を乗り越えた彼らのその後の幸せな様子を書くことがとても楽しいのです。それを書くために、それまでの物語を書いている、と言っても過言ではないかもしれません。
それでも、そうやっていくつかの番外編のお話を書いた後、やがて、登場人物たちについてもう書き残したことはない、と思う時がやってきます。そうすると、本当にその物語が終わったなあと感じます。そうして、それまで自分の一部のように息づいていた登場人物たちが、少しずつ遠ざかっていく。
それがとても寂しい、そう感じているようです。
どんな物語も、読み終わってしまうと、少しずつ忘れ去られていきます。それはとても寂しいことですが、私自身もそんな風にして作者の方々の一部となって生み出された物語を、たくさん読んできたのだなあと改めて感じたのでした。
「海の王と風の娘」も「Somewhere, Nowhere」も、Web小説としてはあまり型にはまっていない、とっつきにくい物語だという自覚はあるのですが、幸いなことに——私としては——多くの方に読んでいただき、あたたかいお言葉もたくさんいただきました。私の中にしかなかった物語の世界を楽しんでいただき、登場人物たちが好きだと言っていただけたことは、これ以上ない幸せなことでした。
願わくば、この二つの物語がこのまま忘れ去られるだけでなく、もっと誰かの心に届けばいいなあと思っているのですが……これがなかなか難しいですね。
最初のエピソードでも書いたのですが、某古本屋さんの言うように「この世につまらない本などない」のだとすれば、その物語が好きか、そうでないか。つまりは興味を持ってもらえるかどうか。
そんなわけで、今度はどうやったら興味を持っていただけそうな方に届けられるのだろうなあ、なんてことを考える今日この頃なのでした。
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