『指輪物語』 / 映画 "The Lord of the Rings"

 全てのファンタジーの始まり、なんて言われる名作ですが、初めて読んだのはだいぶ大人になってからでした。


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 三つの指輪は空の下なるエルフの王に、

 七つの指輪は、岩の館のドワーフの君に、

 九つは死すべき運命さだめの人の子に、

 一つは暗き御座みくらの冥王のため、

 影横たわるモルドールの国に。


 一つの指輪は、全てを統べ、

 一つの指輪は、全てを見つけ、

 一つの指輪は、全てを捕えて、

 くらやみのなかにつなぎとめる。


 影横たわるモルドールの国に。

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 物語の始まりに載せられている、美しくレイアウトされたこの詩。もうぞくぞくします。ファンタジー好きにはたまりません。


 ——が、いきなり始まる「ホビットについて」ですぐに眠くなって挫けた記憶があります。最近再読を始めたのですが、やっぱり開始十ページで眠くなります。むしろ睡眠導入剤として完璧です。次点は『吾輩は猫である』(いまだに読破できていない……)。


 閑話休題。序章ではいきなりホビットの身体的、性格的特徴やその習性などが、みっちりと十ページ以上続くのです。

 さらに続くのが、「パイプ草について」。長窪印だのトビイ爺印だのと言われましても。そしてところでヌメノール? ゴンドール? ってどこよ、みたいな。

 ただ、これを読むだけでどれほどこの物語の世界が広いだけでなく、深いのかが垣間見えます。


 この物語が凄いのは、こうした細部がきちんと後から生きてくるのです。たとえばここで語られたパイプ草については、メリーとピピンがアイゼンガルドの戦いの後、長窪印のパイプ草を発見して、実はそれはサルマンがホビット庄から手に入れていたから、だと気づけるようになっていたり。

 そのメリアドクとペレグリンがホビット庄に戻ってからもローハン及ゴンドールと繋がりを「維持していた」ことが、実はその序章の中で語られていたり。

 物語を最後まで読み切って、序章を読み返した時に、物語が終わった後の彼らの行く末が実はその中に散りばめられていたことを知ってあまりの緻密さに震えてしまったのも鮮明に覚えています。


 ……にしても長いんですけどね。ひたすら食べて遊んでの誕生日パーティいつまで続くんですかっていう。


 この物語はひたすらに謎が散りばめられ、第一部となる「旅の仲間」は基本的に逃亡の物語で、あまり盛り上がりません(個人の感想です)。トム・ボンバディルなんて映画でばっさりカットされちゃってますし。


 ところが、第二部「二つの塔」から俄然面白くなってきます。木の守り人エントとサルマン率いるアイゼンガルドのド派手な戦い、ローハン王の復活と、彼に突然に訪れる運命。ゴンドールの執政とホビットとのちょっぴり心温まる交流と、その後の狂気。


 何よりも第二部の始まり(映画では第一部の終わり)で訪れる「彼」の死。おっさんが好きとあちこちで触れ回っていますが、小説のおっさんとしては、彼が一番好きかもしれません。傲慢で向こう見ずで、誘惑に弱い。けれども、自分の犯した罪を心から悔い(それすらも指輪の誘惑で、決して彼だけの責任ではないはずなのですが)、小さな仲間たちを守るために命を賭ける。

 原作だと垣間見える程度ですが、それでもメリーが執政に彼のことを語るシーンは涙なしには読めません。


 改めて読み直してみたら、映画版の補正がだいぶ入ってました……。


 "I would have followed you, my Brother.., my Captain.., my King.."

 "Be at peace, son of Gondor"


 映画版で追加されたこのシーン、本当に好きです。「我が王」って言うんですよ、が!!

 ちなみ映画版は、ほぼ完璧でしたが個人的にはファラミアの扱いだけが許せなーい! と初見のときに心の中で叫んだのを覚えています。


 指輪の力に屈することのない高潔な精神を持つ彼が、お告げの通りに裂け谷に来ていたら、あの悲劇は起こらず、兄弟揃ってエレスサール王の治世を執政として支えてくれたんじゃないかな、なんて……。

 アラゴルンはフロドたちと出会った時は八十五歳。若い頃にはゴンドールにいたそうなので、きっと彼ら兄弟も幼い頃に会っていたんじゃないかなあ、なんて。そう思うとより切ないです。


 語り始めたら長くなってしまいました。


 ということで、『指輪物語』最初で挫けたという方は、ぜひまずは映画版から入っていただいて、ついでに最初の方はとばして裂け谷(文庫版三巻)あたりから始めると良いんじゃないかなと思います。


 次はフロドとサムとそしてゴクリ(ゴラム)あたりについて語ってみたいと思います。


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『新版 指輪物語』J・R・R・トールキン

 瀬田 貞二・田中 明子 訳

 評論社(文庫版)全十巻


 トールキン生後百年を記念して作られた全三巻の大判愛蔵版(一冊7800円!!)は、アラン・リーの挿絵が本当に美しいので宝物としておすすめです。


『はてしない物語』のハードカバーと並べて置いておくと、バスチアンの気分に浸れます。

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