『たったひとつの冴えたやりかた』
本屋さんが好きです。最近はめっきり時間が取れないので、コミックなどは、ほとんど電子書籍で買ってしまうのですが、小説に関しては、どうしてだかいまだに紙の本で買います。というか、紙の本じゃないと探せないし、読めないような気がしています。
ともあれ、書店でざっと平積みの本たちを眺め、それから棚に並べられた作品の背表紙をぼーっと眺めていくと、以前読んでいた作品の続編を見かけたり、気になっていた作品を見かけたり。
そうして背表紙を眺めていると、タイトルだけで惹きつけられる作品に出会うことがあります。
『時計じかけのオレンジ』
『存在の耐えられない軽さ』
『桜の森の満開の下』
『月は無慈悲な夜の女王』
海外の翻訳作品が多いような印象もありますね。映画だと "Frozen" とか "The cure"など、シンプルすぎるタイトルになってしまうのに。不思議です。
『たったひとつの冴えたやりかた』
これもその一つです。
原題が "The Only Neat Thing To Do" なので、ほぼ直訳と言えるのですが、それにしても完璧すぎじゃないでしょうか。"Neat" が、きちんとした、とか巧妙な、なので "Neat Thing To Do" は適当に訳したら「ちゃんとした方法」あたりでしょうか。それが「冴えたやりかた」。
これ以外ないと思えるのに絶対に自分だと思いつけないその言葉の選び方。いやもうなんというか、やられた! と思ってしまうそのセンス。凄いです。
タイトルからどんな内容を想像されるでしょうか?
私はなんとなくハードボイルドなイメージがありました。ところがどっこい、読んでみると、十六歳の女の子の宇宙冒険譚なのです。
十六歳になったばかりのコーティーは買ってもらったばかりの宇宙船で家を飛び出し、うまいこと大人たちを誤魔化しながら、別の宇宙船が消息を断ってしまったエリアへと冒険の旅に出ます。そこで、未知の生命体との遭遇を果たすのですが、その生命体との出会いが彼女の運命を大きく変えていくことになり……。
彼女が遭遇する事件は結構えげつなく、その先で彼女が言う「たったひとつの冴えたやりかた」な選択も、最初のわくわくする冒険の始まりからは想像もつかない結末を迎えます。
明るくもウェットなこの物語の、その作者自体がトリッキーでその事実を知った時にああ、なるほど、と思ってしまいました。
高村薫の『レディー・ジョーカー』の某刑事のあの台詞を読んだ時に、気づいたそれ、といえばわかる方にはわかるでしょうか(わかりにくい)。
気になる方は、ぜひ作品を読んでみてから作者のジェイムス・ティプトリー・Jrについて調べてみていただけると良いかなと思います(訳者あとがきで語られていますが)。
この方もまた「事実は小説よりも奇なり」を地でいく作家です。
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『たったひとつの冴えたやりかた』 ハヤカワ文庫SF
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
朝倉久志 訳
表題作の他に同じ世界観で連作という形になっているのですが、すっかり内容を忘れているので、これから読もうと思います。
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