「子どもの伝記」シリーズ

 小さな頃から、一人で本を読んでいる子供だった、とよく親には言われていました。三歳くらいから気がついたら一人で本を眺めていたそうです。二番目なので放置されていることが多かったせいではないかと思うのですが。


 最も古い記憶で印象に残っているのは、幼稚園にあった「エルマーのぼうけん」に「おしいれのぼうけん」。それから最初の数ページだけ読んで、なんだかどうしてもその先を読む気になれなかったけれど、タイトルだけははっきりと覚えている「いやいやえん」。


 よく本屋さんで見かけるくるくる回るスチールの棚にある本もたくさん読みました。「にんぎょひめ」「はくちょうの王子」「おやゆびひめ」「シンデレラ」「赤ずきん」「おおかみと七匹のこやぎ」。

 グリム童話とアンデルセンは一通り通りますね。今読むと、「おやゆびひめ」や「はくちょうの王子」あたりは、主人公の人生ハードモードすぎない⁉︎ って驚いたりするものですが、当時は疑問を抱かずハッピーエンドに安堵していたのですから、子供って不思議ですね。


 そんな短くも楽しい物語を楽しむと同時に、少し大きくなってからは、母が買ってくれたり、離れて暮らす祖母から時々送られてくる本を、何の疑問も抱かずに読んでいました。何の疑問も抱かず、というのは、自分にとってそれが面白いかどうかは関係なく、与えられた本は全て読む、ということでした。

 今思えば贅沢な感覚です。ほとんど無限に自由な時間があった子供時代だからこそ、出来たことだったのかもしれません。


 それでも、これだけは読むのがしんどかったなあとおぼろげながらにも覚えているのが、子供向けの伝記『モーツァルト』でした。離れて暮らしていた祖母は孫の感受性と教養を養うべく、ありがたくも伝記作品をあれこれと送ってきてくれたのですが、正直、わくわくする冒険譚に比べ、延々と誰かの人生について語られる物語は、それほど興味を惹かれるものではありませんでした。


 でも、この本の前に贈られた『ヘレン・ケラー』は何度も読んだ記憶があるので、伝記がだめというよりは、単純にこの人の話が面白くなかったのか(作者がそれぞれ違うので)、モーツァルトという音楽史上最高の天才の、それでも坂を転がるように何とも暗い最期を迎えるその人生が、まだそんな闇に触れる前の子供が読むには向いていなかっただけかも知れません。

 とはいえ、では中学生になって読みたい本かと言えば、やっぱり面白くはなかったので、抵抗感の薄いうちに、ある意味強制的に摂取させられたのは、よかったのかもしれません……いや、やっぱりどうかなあ。

 『ベートーベン』も表紙を覚えているし、読んだ記憶もうっすらあるのですが、内容をさっぱり覚えていないので、やっぱり面白くなかったのでしょう。個人の感想です。


 それでも本を読むことはずっと好きだったし、国語の授業に関してだけは何の苦労もせずに育ってこられたのは、子供時代の膨大な本の贈り物のおかげだろうと思います。

 子供の本って難しいけれど、結局、自分が読んで欲しい本をとりあえず贈っておけばいつかその子の糧になるのかもしれません。

 ——当分は本棚の肥やしになるとしても。


 なんてことをふと思い出したのですが、母も祖母も既に他界してしまっているので、感謝を伝えられないのが残念です。


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「ポプラ社 子どもの伝記全集」

 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/5090.01.html


『モーツァルト』著/真篠 将

『ヘレン・ケラー』著/山口 正重

『ベートーベン』著/浜野 政雄


 今思うと、このリストから何でこの選択なのかなあと思ったけれど、当時ピアノを習っていたので、そのせいだったのか、とようやく気づきました。


 ツェルニーやソナチネが嫌いで、ブルグミュラーが好きでした。

 その結果——ご想像の通り——今では猫ふんじゃったとエリーゼのために、くらいしか弾けません。


 もうちょっとモーツァルトの伝記が面白ければ、結果も変わって……いないか。

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