39 瑠璃ホテル
一煌を助けたいなんて勝手に思っておきながら、昔何があったか聞こうとせず、挙げ句の果てに来駕に嘘までついて傷つけた。自分を守るために仕方がなかったと、正当化して。どこまでも無責任で、自分を傍観して。
元いた世界では、それこそが自分自身を守る唯一の手立てだった。怒られる自分を、陰口を言われる自分を、自分の隣に立って傍観し、あたかも自身に起こっていることではないと錯覚させる。そうすることで幾分か、心の揺らぎが少なくなった。傷つけられたくない一心で見つけた、自分を守る方法。
「私、どう、したら……。」
動けなく、なる。何をどうしたらいいのか。頭がまわらない。
「ん」
「紅弾様?」
ふと声が聞こえてきて、花香が紅弾の名を呼んだ。疲れた目をして、けれど顎でホテルを示している。
「紅弾様、お泊まりになりたいんですか?でも、生憎今日は……え?あ、お姉ちゃん、予約してくれているの?」
「え?」
紅弾は頭を振ったり頷くことで花香と意思疎通を図っている。花香も花香で紅弾の伝えたいことをちゃんと汲み取って、小首を傾げながら小春にそう声をかけた。
「来駕から瑠璃ホテルに宿泊するって聞いてるよ」
「来駕様!じゃあ、お姉ちゃんが来駕様と一緒に来た人なんだね!……あれ?でも、昨日キャンセルの電話を受けたのでキャンセル待ちのお客様にお部屋を譲ってしまって」
「キャンセル?」
花香の言葉をなぞってみるものの、上手く頭に入ってこない。
「うん、そうです。昨日、清輝学園の学園長から直々に。来駕様と、お姉ちゃん……小春様?」
「あ、小春です」
「小春様!来駕様と小春様はいい機会だから清輝学園の寮で寝泊りしてもらうって聞いていたんだけど……。」
「え!?」
来駕はそんなこと一言も言っていなかった。
「とりあえず、戻られたほうがいいと思います。今度機会があればぜひ、瑠璃ホテルに!夜国の魔力を使っているので綺麗な夜空がお部屋の天井に見えるんですよ。結構評判いいの!紅弾様もまた泊まりに来てくださいね!」
にこにこと可愛らしい笑顔で花香は言った。小春は辛うじて頷くことができたけれどいっぱいいっぱいで、それからのことはよく覚えていない。
気怠そうに立ち上がった紅弾の丸まった背中をひたすら追いかけて、進んで行った。
「紅弾様あああ!!一体、今までどちらに!」
正門前に着くと、いつのまに戻ってきたのか紫露が半泣きで今にも紅弾に抱きつきそうな勢いだった。
「ちょっと課題終わらせて戻ってきたら、紅弾様がどこにもいなくて!どれだけ心細かったことか!」
紅弾は紫露の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でると困ったような顔をして正門へ手をかざした。
紫露は紅弾に頭を撫でられるのが嬉しいのか、気持ちよさそうに目を細めて頬を赤くさせていたけれど、紅弾が宙で何かを掴むような仕草を見るとハッとしてその表情を硬くした。
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