22 目の色



「小春もフード、被って」


小春も同じく黒い外套を身につけており、来駕にフードを被らされてしまう。

視界が正面だけになって横が見えづらくなるし、いいことなんてないのにどうして被るんだろうと、狭まった視界を気にしながら来駕を見つめる。


「どうしてフード被るの?」


「夜国だって周りにバレると色々面倒なんだよ。ああ、でも小春は目の色が黒だから碧水国の者だと思われるか。まあ用心するに越したことはないからな」


「目の色?」


「夜国は目の色は青。日華が赤。碧水が黒、玉樹が茶色だ」


だから来駕は初めて会った時、目の色を見て驚いていたんだとわかった。隠さないといけないほどに夜国は他の国からよく思われていない。


来駕の藍色の目はとても綺麗なのにもったいないな、と来駕の目を見つめる。小春の視線を感じたのか来駕と目が合いそうになった、刹那。おずおずと桜が前に出てきて、来駕は桜へ目を向けた。


「来駕様、あの……。小春様、お眠りになれなかったようですので、その、休憩をこまめに挟んで、ご無理をされない程度にお願い致します」


「あ、桜さん、そんなに心配しないで大丈——」


やっぱり心配そうな顔をする桜を安心させようと笑ってみせた。

——けれど。


「眠れてないのか?」


声が落ちてくる。引き寄せられたかと思えば次の瞬間には桜が見えなくなり、代わりに来駕の真剣な顔が視界に入ってきた。


「あ、えっと、でも、全然眠くないし、逆に冴えてる感じがあるからっ」


「今日は早めに休息をとる。少しでも辛くなったらすぐに言えよ。いいな?」



来駕はそう言うと掴んでいた小春の腕を離し、扉へ向かっていく。それに合わせて使用人が扉を開けた。強めな声色と目に「もしかして来駕、怒っているんじゃ」と心配になってしまう。


任務をしっかりこなそうとしているんだから寝不足で足手纏いにならないようにしなきゃ、と小春はぎゅっとお腹辺りの外套を握った。



「小春様、来駕様もああ言ってくださったので、ちゃんと辛くなった時は伝えてくださいね!あのお方は一見冷たくも見えますが、根はとてもお優しい方なんですよ。誤解されることもありますが。だから、あまり気負わないでくださいね」



「桜さん……。」



誰かにこんなにも心配されることがなんだか久しぶりな気がして、手の力を抜いた。桜は小春の肩を優しくさすり「きっと上手くいきます」と柔らかく笑ってくれる。


小春は「ありがとう」と笑って、来駕の後を追った。


きっと、大丈夫。と心の中で唱えながら。キィッと音を立てて扉がゆっくり閉まっていく。桜が遠慮がちに手を振っているのに気づいて振り返す。と、桜は照れ臭そうに笑って。——扉が閉じた。



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