日華国

協力者

21 朝




***


夜国に朝がやってきた。それは小春がよく知る朝と全く同じだった。日が昇り、空がぼんやり明るくなっていく。夜はひっそりと息を潜めながら消えていく。


今日はここで寝ろ、と通された城の一室は小春が住んでいたアパートの何倍もあり、贅沢すぎるほどだった。


そこで四日ほど過ごした。その間、来駕と会う機会はなく、ずっと桜と一緒にいた。


カーテンの隙間から月明かりが差し込み、床に細い線が伸びていた。小春はその光の線の上に爪先を置いた。その線の上を歩いてレースカーテンをゆっくりと開ける。


窓の外を見つめベランダへ出ると、風がふわりと頰を撫でた。暖かい。前の世界と同じ暖かさを感じて、息を吐き出した。



「……ねえ、一煌、」


欄干に手を置いて薄闇をぼうっと見つめる。


「私、この世界でどう生きていきたいのかな。一煌にとっての悪者がこの世界にはいるんだよね。私にとっての悪者がこの世界にもいたらどうしよう。私、来駕にとっての悪者に、なっちゃったかな……。」


一煌からの応答はなかった。小春は応答がないとわかっていて、それでも話しかけた。


「夜が来たら出立する。今日は早めに寝ておけよ」と四日目の朝、来駕にそう言われたが、緊張で眠れなかった。目が冴えてしまい小春はずっとベランダでぼうっとしていた。


陽が夕焼けに変わり始めた頃。それは朝になり約5時間後、桜が部屋へやってきた。



「小春様、もうお目覚めでしたか?」


「ううん。寝てないの」


「えっ!?もうすぐ出立ですよ!体持ちますか!?大丈夫ですか!?」


「うん、来駕に迷惑はかけないようにするから大丈夫だよ」


「いいえ!私は小春様のお体が心配なんですよ!夜国に来たばかりなのに夜の番人様と任務に赴くなんて。体力も忍耐力も必要だと思いますから」


桜は小春の手をぎゅっと握り、心配そうな顔をする。

夕日が後ろから小春と桜を照らし、部屋の中に影を落としていた。


「うん、ごめんなさい。ありがとう」



小春も桜の手を握り返して、それから笑みをつくった。夕焼けが落ちていくにつれて、赤みを帯びた夕日の色が強くなり夜国を照らしていた。夜国の全てが夕日の濃い影となる。小春はその様を眺めながら、光よりも影のほうが落ち着くな、と思っていた。


「小春様、着替えましたら下へ降りましょう。来駕様もいらっしゃると思いますので」


夕日がとっぷりと夜に浸かる頃、小春は桜に手を引かれて、部屋を後にした。


「小春、どの国に住むか見学も兼ねての任務だ。時間の関係上、夜国の見学は任務の最後にするけど大丈夫だよな?」


これからの説明をする来駕は小春に冷たい態度を取ることもなく、いたって普通に見えた。嘘をついて傷つけてしまったことを謝りたい。でも一煌のことは話せない。どうすべきか、小春はずっと迷っていた。だから少しだけ普通の来駕に安心してしまう。


「うん、大丈夫だよ」


玄関ホールは昨日と違い、全く人がいなかった。声を出すと反響する。

来駕は黒外套で体を覆い、おまけにフードまで被っていた。覗き込まないと誰だかわからない。




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