19 光の粒
***
「小春様、何がお好きですか?お菓子もいっぱいありますよ」
「え、えっと……じゃあ、その、チョコレートを」
「ちょこれ……?これですか?これは、『光の粒』と呼ばれていて隣の日華にっかから取り寄せたんですよ。とっても甘くておいしいんです」
「ひ、光の粒……?」
小春はそのお菓子をまじまじ見つめながら思う。
いや、この艶々で茶色の丸々したフォルムはどう見てもチョコレートなんじゃ……。
光の粒なんて、大層な名前……ううん、食べてみたらチョコレートじゃないかもしれない。と思い、口にすると。……あ、これ、完全にチョコレートだ。
「僕もすっごく好きなんですよ!あ、来駕からこの世界についてどれくらい聞きました?日華国にっかこくとだけはまあまあ交流があるんです。他国とは争いはないにしても交流は全くとれませんが。夜国は恐れられ嫌悪されていますからね」
来駕とエレベーターで最上階まで行き、落ち着いた輝きの金の扉を開けると天井と壁がガラス張りの部屋で夜の統率者——伊琉が立っていた。
こちらに背を向けて真正面に見える月を見つめていた。
白い中に黄色い明かりが灯っているような、窓を埋め尽くすほどの大きな月を見つめていた。
月明かりで星は見えず、そのぼんやりと静かな光は部屋の暗がりを曖昧に照らしている。
——こんばんは。
と柔らかく微笑まれ、小春も同じように挨拶をすると「明かりをつけましょうか」と伊琉は微笑み、天井に手をかざした。
すると丸い光が天井から4つ現れ、ふわふわと浮かび、その光はだんだん大きさを増していった。
瞬きを一度すると部屋は電気がついたみたいに明るくなり月の存在は薄くなって、現実へ一気に引き戻されたようだった。
それから伊琉はにこっと可愛らしく笑い、テーブルの上にあるお菓子を小春に勧めたのだ。
「伊琉様、明日、出立ですので道中に詳しい話をしようかと」
「ああ、それもそうだよね。うん、それがいい」
「えっ!ちょっと、うぐっ!?」
伊琉は来駕の言葉に頷くと、小春の口にチョコレート、もとい光の粒を人差し指で押し込んで愉しそうに笑った。
小春は口の中に広がるお馴染みの甘さに舌を痺れさせながら「明日出立なんて話聞いてない!」と来駕に目で訴えると彼は「言い忘れていた」という表情をして苦笑いを浮かべた。
「でね、僕が小春様に聞きたいことはただ一つ」
来駕に気を取られていた小春の頬に伊琉が手を伸ばす。
頬に軽く触れると、自分と目を合わせるように小春を誘導した。
「……っわ」
長い睫毛は銀色で、その目は真ん丸い作り物のような透明さを持つ蒼色だった。
幼く見える、は間違いだったと気づく。この目のどこが、幼いんだ。
「これからどこで生きていきたいですか?」
どこで、生きていきたいか。——その聞き方は、小春の胸を
どの国に住みたいか、ならよかったのに。
その聞き方だと生活できる場所、じゃなくて自分が自分らしく生きるためにはどの場所を選ぶか、に聞こえてしまう。
小春は逃げることに精一杯で、本当のことを言えば、逃げてからのことは全く考えていなかった。
逃げた先でまた生活をする、生きるということが想像できなかったからだ。
「夜国以外は一度その国に身をおくと決めても、やっぱり違う国にするというのができるんです。でも、夜国は他国との外交が壊滅的なので、そのような移動ができません。慎重に決めてくださいね」
「……えっと、まだ、わからないので考えておきます」
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