17 伊琉様





「……あの、来駕、様」


 部屋につくなりソファーに腰をおろして息をつく来駕に恐る恐る話しかける。

さっきから驚くほどに静かで、心配になってしまう。


「……ん?」


 来駕はジャケットを脱いでソファーの背もたれにかけ、ネクタイを緩めていた。


「って、様?小春、俺に仕えてるわけじゃないんだから、呼び捨てでいいんだよ。これからパートナーになるんだし敬語もいいよ。面倒だろ」



きょとん、としてから来駕は肩を震わせて笑った。



「あっ、そうなんだ……。」と小春は口元を押さえながら、笑っている来駕をちらりと見る。

よかった、笑ってくれた。



「夜の統率者って、何をしている人なの?その、なんだか普通の人と違う気がして」



「様、な。夜の統率者様。夜国には王様がいない。実質、国を治めている人が伊琉様。誰にでも平等に接する。民から好かれているし、他国とこうして上手くいっているのも全て伊琉様の尽力あってのことだ」


「来駕は、夜の統率者様と親しいの?」


「……ああ、まあ。俺に剣を教えてくれたのはあの人だしな」


「剣を?夜の統率者様って、何歳なの?」


「ああ見えて俺よりも上。見た目よりも遥かに生きてるぞ」


「えっ」


「ちゃんと説明しないとだな」


 自分の隣をぽんぽんと叩いて小春に座るよう促す。


来駕は体を横へ向け背もたれに右肘をつけると、そのまま顳顬こめかみを支えた。


小春は来駕の隣に座って向かい合わせになるように体を傾け、説明を聞く体勢になる。


まずはこの世界のことをちゃんと知ろうとしないと。


「この後、伊琉様に会いに行くけど十中八九、どこの国に住むかって話をされるだろうな」


「え?私が住む国?この夜国じゃないの?」



「選べるんだ。俺は夜国が好きだから勧めはするけど。夜国は夜が長いから自然と人の魔力を高める。だから、ほら宙に浮かんだりできる。魔力の強さには個人差があるけどな」


「魔力って夜国に住めば誰でも貰えるものなの?」


「貰える、というか勝手に発現する感じだ。夜に身を置けば、自然と魔力が体に溜まっていく」


「……自然、に」


「ああ、そうだ。だから夜国では魔力を扱えるって普通のことなんだけど、他国では魔力を持った奴なんてそうそういねえ。だからこそ夜国は他国から恐れられて、嫌厭されている」


 自分とは違う人間を怖がったり嫌ったりするのはこの世界でも一緒なんだな、と気持ちが沈んだ。

来駕は「けどな」と話を続ける。


「この世界を作り出した御仁ごじんの意思を継いでいるのは夜国だと俺は思ってる。

『弱い人間の居場所、思いやりの世界』を作ったんだ。だから、逃げ道としてゲートが開く。夜国のな、魔力が高いってのは異世界へのゲートが作りやすくなるってことでもあるんだよ。……作りやすいっつーか、まあ、異世界の出入り口は夜国でしか作れないんだけどな。だから小春みたいな来訪者は必ず夜国へ導かれる」


「この世界を作り出した人がいるなんて、神様みたい」


「間違ってない。この世界の神にあたるだろうな。まあ、生きてるけど」


「え!?生き、生きてるの!?」



 世界の創造者が生きているなんて、信じられない。と、目を見張る。

けれど来駕はそんなに可笑しい事を言ったか?と首を傾げるばかり。






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