14 パートナー



「さっきの仕事の話。協力してほしいってやつ」


「はい?だからって何で迫ってくるんですか……?」


「引き受けてくれるか?」


「どんな仕事ですか?まだ内容聞いてないですよ」



 来駕は仰反のけぞる小春を見て何故か満足そうな顔をしている。


小春はその行動も言葉もわけがわからず、困惑していた。



天井の星には雲がかかり、浴室は薄暗くなっていく。



「俺はこれから任務に就くんだ。丁度この後、任命式があんの。で、ここからが重要なんだけど」



何歩か後ろに下がり、来駕は優艶に微笑する。



「『夜の番人』のパートナーになってくれないか」


「番人のパートナー……?」


「そう。俺が夜の番人。パートナーっていうのはつまり、その補佐役」



 だからさっき桜は「お相手をお決めになられたのですね!」なんて言っていたんだと納得した。



「補佐役の条件は女であること。番人は他国に赴く任なんだ。女も一緒に連れて行って、外の様子を夜の統率者様に報告しなければならない。女目線、男目線で他国を見て夜国のこれからをどうしていくのか決める材料にするんだ」


天井の雲がだんだん動き、星が露わになる。

静かな光がまた降り注いで、来駕と小春を淡く照らした。



「まだよく夜国のこともこの世界のこともわかっていないので、その補佐というのも、なんていうか、全然」


 ——わからない。来駕のことも正直、どこまで信用していいのか、わからない。



 新しい世界に来たのに、一煌が「悪者が——」なんて言うから変に身構えてしまう。



でも、他国に赴くというのは都合がいい。

四国に一煌の力の欠片が封印されている。この人のパートナーになれば集めやすそうではあるけれど。



「重要な任務なんだ。それなりに報酬も出る」


「……どうして私をパートナーにしようと思ったんですか?」



「俺が迫ったら、避けようとしたからだ。下心のない奴じゃないと困る。仕事だからな」


「……え?私に限らず、一般的な反応じゃないんですか?」


「あー……俺はこの国で夜の管理者様の右腕をやってるんだ。だから、それなりに金も、今度は『番人』にもなるし肩書きもある。

つまり女が寄ってきやすいんだよ。恋愛だの結婚だの、そういう女ばかりでなかなかパートナーが決まらなかった。その点、小春はこの世界に来たばかりで客観的な視点も持てるだろうし、会ったばかりの俺にそういう感情は抱かないだろ?」


「なる、ほど」


恥ずかし気もなく話す来駕の顔色は曇り、本当に困っているのだとわかる。


「社交界で波風たてねえように、人との関係を円満に、と思っていたら勝手にそういう笑顔の外面ができた。その外面に好意を抱く女たちが多くて、今回のパートナーも婚約を意味するものだ、なんて変に騒がれて勘違いされて困ってたんだよ」




 溜め息を吐き出しながら床に落ちたジャケットを拾い、来駕は疲弊しきった声でそう言った。



「私に結構、いろいろ話してくれるんですね」


「——まあ、人に何かを頼む時の誠意だ」



来駕は一瞬、驚いたような顔をしたが目を逸らして呟いた。




「引き受けてもいいですよ」




小春は自分にも都合がいいことだし、来駕を不憫に思って頷いた。あと、悪い人じゃない気がして。


すると、「本当か?」と来駕の表情が一気に明るくなる。



「助かる。この後の任命式、一緒に出てくれるか?」


「わかりました」


「じゃあこの後、よろしく頼むな」



来駕は浴室を出ようと出入り口へ向かって行き、出る直前で体を少し傾けて小春へ目をやり、柔らかい微笑を浮かべた。



パタン、と扉が閉まる。



確かにあの微笑を向けられたら、ひとたまりもない。勘違いする女性だって大勢いるはずだ。

今度はあの微笑の餌食にされた女性たちを哀れに思ってしまった。




———

————……


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