第5話-2 強く進む為の覚悟を
”アリサ・ヴィル”
互いに、属性強化し打たれては受け、受けては打つの膠着状態になっていた。
「長剣をそんな上手く扱えるなんてな。おまけにまさか光属性で、攻めにくい...な!」
「グラッド君こそ、長物なのに上手く捌いて、認識ずらして内に入っても反応されて決定打を当てれない!」
ヴィルの属性は風、属性強化することで風を感じて攻撃に反応しやすくしたり、切れ味や速度を上げれるというのは、話で聞いたことがある。
アリサが今使っているのは光で、属性強化の基本は認識を少しずらしたり、防御に充てることでかなりのダメージを減らす事ができる。
「行くぜ。風弾!! からの風斬!!」
属性弾の後に、風を纏ったグレイブで鎌鼬のようなものを放ってきた。
アリサは、即座に手を出し前に簡易に結界を張った。ヴィルの攻撃を防いだ瞬間
「くらえ!」
上方より、ヴィルがアリサにグレイブを薙いできた。
アリサは一瞬反応が遅れ、防御を十分に出来なかった。
「くぅぅ...」
何とか持ってるけど、押されてる。
「悪いが、このまま勝たせてもらうぜ」
更に、魔力を込め押し込んでくる。
"このまま…負けるのは嫌!"
アリサの剣が弾かれ、ヴィルの攻撃が当たる瞬間
「あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ」
アリサの周囲に白と黒の魔力が纏われた。そして剣が振られヴィルの体に当たる。
そして、互いの結界が壊れた。
「ぐはっ!! 痛ってて、マジかよ」
ヴィルが空中から落ち、背中を打ち付ける。アリサを見るが、属性強化は解けており、荒い息を立て座り込んでいた。
「ちょっと、2人とも大丈夫?」
セリエが駆け寄ってくる。
「俺は、背中打っただけだし大丈夫」
「ふぅ...私も大丈夫。ごめん、私もう帰るね」
ヴィルは背中を擦りながら答え、アリサは息を整え答えた後に、急にこの場から出て行った。
「ねぇ、さっきのアリサが出したの属性強化?一瞬でちゃんと見えなかったけど、2色に見えて、もしかして複数持ち?」
「俺は、すぐに攻撃当てられたからよく分からなかったな」
「複数持ちなんて聞いたことないし、もしそうならすごいことなんじゃない?!」
セリエが興奮するのもわかる、属性の複数持ちは聞いた限りいないのだ。もしかしたら、発見されてないだけで存在はしているのかもしれないが。
「だとしても、俺達が気にしても仕方ないことだ。いずれわかるだろうし」
勇夜は会話を切り上げ今日は解散しようと言い、その後少し会話した後に解散となった。
次の日、学園は休日
いつものように目が覚めた勇夜は、如月家で行われる集まり事について考えていた。
今日は、如月家の道場が始まっての20年記念なのだ。その為関係者が集まってくるので居心地が悪く、家を出て以来ほとんど帰ることはなかった。
考えている間にも時間は過ぎていく。とりあえず、家からは出ることにした。実家を出たのは俺が12になった年なので、約4年程顔もまともに見せてはいない。
頭がモヤモヤしながら、昔よく通った道を抜け、きちんと答えを出せないまま着いてしまった。開始は夕方からで今は昼時、つまりは勇夜は早く着きすぎたのだ。勇夜が門の前で唸っていると
「あら? 誰かもう到着したのかと思って出て来たら、来てくれたのね~勇夜」
門が開いて、ふわふわした話をしながら出てきたのは、雰囲気と同じふわふわした栗色の髪を肩より少し伸ばした 如月
「さ、上がりなさいな。お昼は食べたの?それともお部屋に行く?」
「大丈夫。それより父さんはどこにいる?」
「あら~勇夜は、久しぶりのお母さんを放っておいてもうお父さんのところに行っちゃうの?」
少し刺のある言い方をされ、勇夜は少し静止した。
「ふふ、冗談よ。あの人なら今、道場の掃除でもしてるんじゃないかしら。さっき頼んだから」
「わかった。父さんのところに行ってくる」
晴香の話を聞き、勇夜は道場の方に向かった。
「気を付けてね~ ………ダメね、久しぶりで話したいこといっぱいあるのに… うん!!しっかりしないとね!!」
晴香は、気持ちを入れ直して厨房に向かっていった。道場の入口に着いた。
「入れ」
引戸に手をかけ、開けようとして声が掛けられた。
「……失礼します」
道場に入ったそこには、掃除用具を持った勇夜の父親がいた。
短髪の黒髪で所々白髪の見え隠れするのは 如月
「鍛練は、続けているのか?」
話そうとした口を閉じ
「ああ」
「剣の……剣の鍛練は、やってないのか?」
「訓練があるから、体を動かす程度には」
「そう…か」
素っ気ない親子の会話が続く。そうして鋼誠が息を吐き
「構えろ、今どの程度か見てやる」
勇夜は小さく頷き、構えを取る。向こうも剣術ではなく、無手で相手をするようだ。
「こい」
その言葉と共に勇夜が飛び出す、そして……
「強くはなったな、……だがまだこの程度か」
道場には、平然と立っている鋼誠と横たわっている勇夜の姿があった。
「ハァハァ! くそ!!」
荒い息を出し、勇夜は悪態をついた。少し間が空き、聞きたかったことを聞いた。
「父さん…俺は…俺は今より強くなれるのかな?」
その言葉に鋼誠の顔が歪んだ。
「はぁ… はっきりと言うが、確かに今よりは実力は上がるだろう。だがそれだけだ。強者と戦えば為す術も無くやられるだろう。…剣を捨てた今のお前ではな」
冷たく、はっきりと言葉が続いた。
「お前は、戦闘のセンスと魔力コントロールは良いが、魔力量と拳闘術は並み、どんなに努力しても越えられない壁はいくらでもある。自分の過去を乗り越えられないようならお前に先はない。それでもお前は、先へ進むのか?強さを求める覚悟はあるのか?」
話の後に、こちらに聞き直してきた。
「俺は…俺は逃げた。辛くて悲しくて弱かった自分が嫌いで…俺はこれからも如月流の剣術を使わない…自分が許せないから、でも……それでも強くなりたい、いつかあいつと向き合うために、弱いままでいたくないから」
きっとかなり自己中心な言葉だろう。強くなる覚悟があると思えないほど曖昧で、それでも今の勇夜には、これが精一杯の返答だった。
鋼誠は、勇夜の目を見て手を差し出し立たせた。
「付いてこい」
鋼誠は一言口に出し、この場から移動して勇夜もついていった。
案内された場所は、勇夜が小さい頃に入ろうとして怒られた部屋だった。扉を開けて中に入るとそこには、結界がはられ保管されている手甲のような物が置かれていた。
「あれは?」
勇夜が聞くと、鋼誠は近付き、結界を解いた。
「これは、俺達が故郷を離れるときに俺の親父…お前達の祖父に当たる人に渡されたものだ。名前は、"
話が少し途切れた。この先を言うか迷ってるようにも見える。
「俺は、この武具を呪具の類いだと思っている。確かに魔力を吸収し力に出来る、おそらく爆発的な力になるだろう。だが聞こえは良いが他人の魔力を取り込むんだ、どれだけ体に負担が出るかわからない。それに自分の限界を越えた魔力の吸収や調整を失敗すれば、魔神経を壊すか最悪死ぬかもしれん」
重い口を開け、淡々と説明がされる。
「それともう1つこの武具には、デメリットがある。この武具の使用は契約する必要がある。そして、契約と同時に自分の魔力総保有量は増えることはない。これから成長するかもしれないものを無くすんだ。大きな力は、それだけの犠牲もいるということだ。お前は、それでもこれを使うか?」
真剣な目で、勇夜に再度問いかけてくる。強くこれから進むために覚悟はあるのかと。
「俺は、それでも……強くなる道があるなら、それを選ぶ!」
勇夜は手を伸ばし、武具に触れた。
その瞬間武具が光り勇夜の体に入ってきた。そして左手に小さく紋様のようなものがついた。
「がっ!!あ"あ"あ"ぁぁ」
体が熱い、切り刻まれたかのような痛みが勇夜を襲ってきた。その光景を鋼誠は、静かに見ていた。本当はもう1つ話していないことがあった。
"やはり認められてしまったのか、願わくは何も反応せずにいてくれればよかったが…通常の魔力であれば反応しない、魔力質が変化していなければ…勇夜もまた、運命に選ばれてしまった"
鋼誠の心境は複雑だった。
少しの時間が過ぎ、勇夜は次第に落ち着いてきた。
「ハァハァ…これで契約出来たのか?」
「ああ、これで正式にお前の武器だ。………少し休め」
勇夜は緊張が解けたのか、糸が切れたように倒れこむ。それを鋼誠は受け止め、そのまま自身の背に乗せる。
「本当に、大きくなったな」
子の成長を改めて感じ、勇夜を部屋の寝室まで運び、横にさせる。
「きっとこれから先、色んな事があるだろうな」
勇夜の頭を撫でながら鋼誠は呟く。
日が傾き、次第に赤みを増す空を見上げ、鋼誠は立ち上がる。外からは話し声が聞こえ、人が集まり始めたのを感じ、自分が行くべき所へと向かった。
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