第19話 実地任務研修 編~それは希望と絶望の始まり~

~剣騎祭から2日後、特騎科にて~




「おはよう、全員出席してるな。 取り敢えず剣騎祭はご苦労さん。出た生徒は様々な所で、良くも悪くも評価されただろう。トーナメントまで出た奴は特にな。これからは色んな目がお前たちを見るだろう。気を改めて引き締めるようにな。 そして、ここからが重要な話だ。以前話したが、実地任務研修がもう少しで始まる。お前達は今年ギルドへ研修にいくが、実戦を肌で感じることができる大事な経験だ。自分達の自信となるようにしっかりと取り組むこと。そして入念に準備を怠らないことだ。後は、ケネデリス、如月、シュバル、フェルム、グラッド、ベネット、オカダはこの後の授業が終わったら俺のとこに集まってくれ。大事な報告があるからな。じゃあ授業始めるか」

ラルク教官に呼ばれた生徒は全員剣騎祭に出たメンバーだ。3人程呼ばれていないが…疑問を抱いたが取り敢えず授業を受ける為に準備を始めた。

授業が終わり、呼ばれた全員でラルク教官の元へ集まる。


「これから話すことは実地任務研修のことについてだ。お前達にギルド側から研修における条件を提示された。まずはケネデリス、如月、シュバル、フェルム、グラッドの5人はチームを組んで研修中はギルドから提示される任務を受けてもらうこととなった。詳しくは、後日研修についてギルドから説明がある時に、その任務について話をしてもらう。あとはベネットとオカダについてだが、2人にもその話が来ているが、2人は騎士科の生徒と組んで研修に当たってもらう。そちらについても後日説明されることになってる。そんなところだな。疑問はあるだろうが、俺も詳しいことは知らん。だから後でギルドに聞いてくれ。じゃ、よろしく」

ラルク教官は話を終えると、そのまま立ち去った。しばしの間があき、


「5人でチームを組んでやる任務ってなんだろうね? 普通は3、4人で護衛とか見回りとか比較的低いランクの任務を受けるって聞いたんだけど」


「さあな、ただギルド側からしたら期待してるってことじゃないか? それに楽しみじゃん。色んな事が経験出来るんだぜ! 今から待ちきれないぜ!」

セリエの言うようにどんな任務なのか、勇夜は何故指名されたのか疑問はあるが、やはりヴィルの話にあるように、楽しみのようだ。学園では対人戦が主になっており、魔物等は知識として学ぶ程度だからだ。学年が上がれば授業で討伐演習というのが増え、直接魔物に対峙する機会が増える。1年目で外に出るのは研修以外ではないのだ。


「随分楽観的なんだね、頭がめでたい奴等はこれだから困る。第一何故俺が貴様らと組まなければならないんだ。任務なぞチームを組む必要ないだろう」


「んだと! そっちこそ、試合で勇夜に負けたから心配で組まされたんじゃないのか? 明らかに協調性無さそうに見えるもんな!」


「ふん! 少なくとも君が必要な人材とは考えられないね。勝てずに負けた君にはね!」


「っ! 言わせておけば!」

トールとヴィルがデジャブを感じるような言い争いを繰り広げ、一触即発の雰囲気を醸し出す。そんな中、二人の頭にチョップがおとされる。


「そこまで! こんなことでいちいち争わないの。決まったことをとやかく言っても変わらないんだし」


「セリ、でもこいつは…」

セリエの言葉にヴィルは反論しようとしたが、ヴィルは頬をつねられ言葉が止まる。


「はいはい、取り敢えずそろそろ戻らないと次が始まるから行くよ」


「イテッ!イテテテテ! わひゃったひゃら、つみゃむにゃ」

セリエはそれなりの強さでつねって引っ張りながら、ヴィルを引き摺っていく。あれは端から見ても痛そうだ…


「間抜けな面だな。 まあいい、少なくともいずれ詳しく聞けるそうだからな」

トールはクラスに戻っていき、その後にリースが小走りで、ケイメンが此方に"悪いな"と言いながら戻っていった。


「私達も戻ろっか」


「そうだな」

アリサが苦笑いしながら勇夜に声をかけて来たので、それに答え勇夜達もクラスへ戻っていった。

日が経ち、ギルドから説明があるとして学園内の集会場へ、一学年の特騎科と騎士科の生徒が呼び出された。クラスごとに整列し、指示を待った。少しの時間が過ぎ、壇上に1人の男性が中央に立った。少し癖っ毛のある茶色い髪に、若さの残る顔立ちのしたその男性は、見た目からは想像出来ない程の威圧感を感じた。


「皆さんおはようございます。私はカルディーク皇国専属ギルドのギルドマスターをしている ノイル・フィーロス と言います。よろしくお願いします。ギルドが何をしているか、学ばれていると思いますので説明は省かせていただきます。それでは今回皆さんが参加していただく実地任務研修ですが、4人から5人のチームを組んでもらいます。その基準ですが明日より2日間の間に、我々ギルドの隊員が皆さんの力、判断力等の総合的に見させていただき、チームとして機能しやすい組分けをします。チームの総合力から研修に最適な任務を提示し、その上で研修の際は隊員同伴のもと任務を受けていただきます」

ギルドマスターの説明が一段落したのか少しの間が空く。その間生徒側は、やる気と楽しみに満ちた話し声が上がっていた。それもそのはずだ、少なくとも以前の剣騎祭に参加出来なかった生徒や参加しながらも結果が出なかった生徒にとってはまた、ギルド側へのアピールの場でもあるからだ。

そして壇上のギルドマスターが話し始める雰囲気を感じ、騒がしい空気がまた静まり返った。


「なお教官より個別に実地任務研修の話があった生徒は、この後私の元へ集合してください。二組いますので…えっと、先にグラッド君のチームから来て下さい。その後、ソロンド君のチームも呼びますので待機していてください。以上です。他の生徒方は各クラスごと指示に従い移動してください」

ゾロゾロと移動を始めるなかで、ヴィルが急に名前を呼ばれたことに驚いていた。


「俺のチームってなんだよ。この間のチームだろうけど、どういうことだよ?!」

ヴィルは小声になりながら、勇夜達に疑問を投げ掛けてきた。


「もしかしたらヴィルがリーダーになるんじゃないか? まあ行けばわかるだろうけど、なんか聞いてなかったのか?」


「ないない、絶対ないだろ。それにそんな説明されてねぇ」

ヴィルは全然納得していないようだが、時間の無駄だと思い、勇夜達はギルドマスターのところへ向かった。


「来てくれたね。5人とも揃っているようだね。それじゃあ研修の説明をさせてもらうね」


「その前に聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

ノイルの説明が始まる前に、ヴィルが手を上げ発言した。それに対しノイルは、どうぞというポーズをとった。


「さっき、グラッドのチームって言ってましたけど、もしかして俺がリーダーとかって訳じゃないですよね?」

先程の疑問をヴィルは確認するように聞いていた。


「その辺りも説明しようとしてたんだけど、まあそうだね。要は君がこのチームの指揮官になるっていう認識でいいんだよ。その理由も踏まえてこれから話すから、取り敢えず質問は後でね」

ヴィルはその言葉を聞いて反論しようとしたが、その後に続く言葉で発言を控えたようだ。


「先ずは任務内容について、今回君達に受けてもらうのは大まかに言って、討伐の任務をしてもらうね。詳しい内容は、当日に見てもらうことになるから最低限の準備はしておいてね。その時には、さっき説明した通り同伴の隊員がいるから安心して。それでこのチームの組分けの理由だけど、一番は将来性と期待からかな。君達の試合を見てそれぞれ良い個性があり、それに伸び代を感じた。君達は何のために今回の剣騎祭が変わったかは聞いているかい?」

突然勇夜達の方を向き、ノイルは質問を投げ掛けてきた。


「はい… 私の姉から聞きました。魔族との戦争のためですよね」

セリエはおずおずとしながら発言をした。


「そうだね。これはまだ公ではないけど、最近どうにもきな臭くなってきてね。何時もより活発化してるんだ。恐らく遠くない時に戦争が始まると予想しているんだ。まあ君達を戦場に出すつもりはないんだけど、何が起こるかわからないのが戦争だから… そういえば君のお姉さんは確か、サレリアさんだよね」


「はい! ノイルさん… あっ!すみません。 ギルドマスターさんは、お姉ちゃんと知り合いなんですか?」


「ああ、ノイルでいいよ。呼びにくいでしょ。まあ知り合いというか昔ちょっとね。殺されかけたというかなんというか… まあ良い思い出だよ、今となってはね。じゃあ話を戻そうか。それでチームの構成について、何故グラッド君がリーダーになるかというと、君が適性を持っていると感じたからなんだ。先ずは視野の広さ、これは君の属性が関係してくるけど使い方が非常に上手い。自身の特性を生かし、それを最大限引き出すのは難しい事なんだ。特に周囲の把握、敵の動きの察知、そしてそれを生かしきる反応力がとても良かった。それは混戦しやすい戦場では最も重要される能力であり、指揮する者に適しているんだ。味方の生存にも繋がるしね。まだ荒い部分もあるから、それを伸ばして貰うために、今回君が指示を出す側にまわって貰うことにしたんだ。それで各々の特性を考えて陣形を考えて欲しい」

理解したかな?というような表情をしたノイルがヴィルに視線を向けた。まだ納得していない様子のヴィルであったが、やがて諦めた表情をした後に頷いた。


「君達を戦場に出す訳ではないけど、いずれ来る戦いに備えるにはどんな小さな事でも見逃すこともできないし、何事も経験だからね。早めに陣形を決めて当日までに連携できるように練習しておいてね。 他には何かあるかい?」

ノイルは勇夜達を見渡し、なにもないことを確認すると満足げな顔をする。


「ないようだね。 うん! 理解の早い子はやっぱり良いね。好印象だよ。それじゃあ、当日楽しみにしててね。報告は取り敢えず君達の教官にしてくれれば良いから」

話が終わるとニコニコしながら"またね"と言い、解散を促されたので勇夜達はそのままお辞儀をし、その場を移動した。クラスにもどる途中にソロンド達とすれ違い、一二言言葉を交わしクラスへ戻った。


これからが大変だ。先ずは陣形を決め、その上で連携の練習をしなければいけない、少なくとも解っているのは討伐任務を受けるということなのだから、出来るだけ不確定要素を消していきたいものだ。話し合いを始めた勇夜達を待っているのは、次に進むための希望かそれとも……

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