第18話 目の前に広がる景色は 朝日のように眩しくて


勇夜が目を覚ますと、本日何度目かの光景を目にする。白い天井にベッドに横たわる自分。一先ず深呼吸をし落ち着く。そして思い出すは、つい先程戦った試合だった。気を失ってたということは、自分がが負けたのかと。そう思った。頭を横にすると、トールが横のベッドに寝ていた。どういうことか考えていると


「目が覚めたんだな」

その声は目を閉じているトールから聞こえてきた。そしてゆっくりと目が開き、勇夜を見てくる。


「ああ、試合はどうなったんだ?」


「ふん、後で他の奴に聞くんだな。俺の口からは言いたくないからね」

不機嫌そうなその言葉にこれ以上聞くのは止めた。しばしの沈黙が続き


「おい、あの時どうやって生き残った? 教えてもらいたいんだがね」


「そうだな… 俺の武器には、魔力を吸収する力があるんだ。それで放出や自分の魔力に加えたりできる。ただ、許容を越えるとさっきみたいに自分を傷つけたりするんだ」


「ほう…意図的に複合させるということか。疑問は幾つかあるが、貴様の強さについて一先ず納得はしてやろう」

トールはそう言うと少し考えた表情をする。


「俺も聞きたいんだが、セリエから聞いたときに見たこともない技を使ったらしいが、俺の時に使った魔法じゃないだろ?」


「確かにな。本来なら言う必要はないが、褒美として教えてやろう。シュバルに使ったのは彼女が今までで一番強くてね。仕方なく奥の手を使った。ただ正直1日一回が限度でね。使った後は自分自身も動きが鈍くなるし、魔力事態安定しなくなるのが欠点だ。 まあ貴様と戦ったときも万全ではなかったが、それでも問題なく勝てると思っていたんだが……、まあいい、そういうことだ」

トールは珍しく俺に話したが


「………ん? それだけ?」


「当たり前だ。何故貴様にどういう物かを教えなければならないんだ? それだけで十分だろ」


「そうだが、俺の事認めたんじゃないのか?」


「あまり図に乗るなよ。確かに先程は認めたが、言った筈だ"今だけ"だと、俺にとっては貴様は欠陥、それ以上でもそれ以下でもない」

聞けば聞くほど、やっぱりトールはトールのままだなと勇夜は思った。同時にお互い全力だったとはいえ、トールにはまだ出していない奥の手があった。そう思うと次も勝てるとは限らない。やっぱりトールは強いなと思っていた。同時に本当の意味でこいつに勝ちたいと思うようにもなっていた。


「ちょっと! 凄く入りにくいんだけど、どうするの?」


「いや俺に聞かれてもな」


「もう少し後で出直したほうが良さそうだね」

扉の前で小さく声が聞こえてきた。少し前から誰かがいる気配はあったが、その聞き慣れた声に、誰がいたか漸くわかった。


「盗み聞きとは趣味が悪いね。育ちが目に見えるようだ。さっさと入ったらどうだい?」

トールは扉の前にいる彼らに声を上げた。そしてゆっくりと扉が開いた。


「よっ! 勇夜も起きてたんだな、良かった。表彰式は変更して二・三年の試合が終わってからまとめてやるそうだぞ」

ヴィルは何事もなかったように話し始め軽く現状について説明をしてくれた。


「そういえば俺達の試合結果は結局どうなったんだ?」

勇夜は気になっていた疑問を投げ掛ける。


「え? トールから聞いてないの? ふ~ん…」

その問いに対してセリエは驚き、トールを弄るような目で見ていた。肝心のトールはそっぽを向き、目をそらしていた。


「なぁに、やっぱり悔しかったんだ。自分から言うって言ってたのに、貴方にもそういう可愛いとこあるのね」

セリエは笑いながら、トールに声をかけた。そんなセリエにトールは急に顔を此方に向け


「ふん! 俺から言われるより、貴様らから言われたほうが、やはり良いと思い立っただけだ。断じて貴様の言うような理由ではない! それに次はこんな失態はあり得ん」

鬼気迫る形相でトールはセリエに対し、声を荒げた。


「まあまあ、それに次なんて言ったら、私だって貴方にもそれに勇夜にだって負けるつもりはないわよ」

セリエは勇夜にも顔を向け、ニッコリとした顔で意思を示した。


少しの会話の後で扉がノックされ、扉が開かれる。


「なんや皆集まっとるやん、リースが遅いからやで」


「むぅ…そんなこと…ない。それに…トール様が居るならいい」

部屋に入ってきたのは、呑気な声のケイメンと少し不機嫌そうなリースだった。どうしたのかという雰囲気の中で、リースがトテトテと小走りしながら移動する。勇夜達は話を止め、その行く先を見ていた。そしてリースはトールの前に立った。


「よしよし…トール様頑張ったね…お疲れ様、カッコ良かったよ」

リースは、皆とトールの予想を斜め上を越す行動にでた。その行動とはリースがトールの頭を撫で、慰めようとしたのだった。その行為にトールがポカンと呆然とし、状況を理解し始めたのか徐々に顔が赤くなっていく。


「なっ!! なっなっ何をする!」

トールは見たこともないほど狼狽え、リースに向かって叫ぶ。


「だって…トール様が落ち込んでると思って…こうすれば…落ち着くから…私が…落ち込んだ時も…トール様が撫でてくれて…嬉しかったから私も…トール様に元気になってほしくて…」

小さな声で、恐らく本人も恥ずかしくなっているような雰囲気を出しながらリースはその行為の意味を答える。


「っ!! もう知らん!」

トールは、遂に耐えきれなくなったのか、頭を振りそのままベッドの布団を頭から被り、動かなくなった。その様子を見てリースがオロオロとしだし、どうしようか悩んでいるようだった。


「ぷっ! あははははっ!」

その笑い声は誰でもなく、勇夜から発せられた声だった。つられて他の皆も笑いだしたが、こんなに笑ったのは何時ぶりだろうか。

部屋の中からは、賑やかな声で溢れていた。時折怒声も混じっていたが、こんな日常も悪くないとこんな時間がいつまでも続けばいいのにと俺はそう思った。

だが、世界はきっと自分達が及ばぬ場所で様々な思惑が交差し、複雑に交わっていく。幸せなど無いと、そして戦えと…


時は経ち、剣騎祭は終わりを告げる。試合を終えた少年少女達に惜しみない拍手と歓声を浴びせ、表彰台に上がった彼らには、勝利の栄光と様々な人へ影響を与え、評価されていく。上がれなかった彼らは次こそはと意思を燃やす。


きっと…次こそはと願いながら…

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