第17話 終わりがあれば 始まることもある
「失礼しまぁ……すっ?!」
「どうしたの? ヴィ……ル?!」
ドアを開け、固まっていたヴィルの背中からひょこっとセリエが顔を出した。2人は何事もなかったかのように静かにドアを閉めた。
その行動を見て、勇夜とアリサはもう一度目を合わせ、"あっ"とアリサが言うと同時に勇夜はベットを飛び出し、ヴィル達の所へ向かおうとするが、バランスを崩し床に体をビタンと打ち付けた。その音に、閉じていたドアがまた開かれ、勇夜にヴィルが近づいてきた。
「大丈夫か?」
ヴィルの心配そうな声に、痛みと頭が混乱していた勇夜は
「違うからな!」
的外れなことを口に出し、ヴィルの服を掴み揺らした。
「わかった! わかったから手を離せ。セリが落ちる」
その言葉に冷静になった勇夜は手を離し謝罪する。そしてよく見ると確かにセリエがおんぶされていた。どうしてそうなったか気になるがそれよりも気になったことがあった。
「セリエがここにいるってことは、試合は?」
「負けたわよ! うぅ… 悔しかったよぉヴィルぅ」
そう言うとセリエはヴィルの背中に顔を埋め、泣いているようだった。ヴィルはそのまま移動し、ベッドに2人で座った。
「よしよし…今回は惜しかったからな。一番いい試合だったよ」
背中にセリエを乗せたまま、空いた手をセリエの頭に乗せ撫でる。
「うぅぅ」
低く唸りながら、セリエはヴィルの背中に顔をゴシゴシとさせた。
「さっきまで泣いてて泣きやんだけどな。また思い出したんだろうな…俺が説明するよ。 結果はセリが言ったように、トールの勝ちだ。セリも善戦したんだが、最後トールの技が入って終了、体が動かなくなったセリを俺が運んできたって訳だ」
端的にヴィルが試合の説明をする。
「最後の技…見たことなかった…むぅ…次こそは絶対勝つもん!」
潤んだ目をしながら、セリエは顔を出して話す。その後頬を膨らまし、啖呵を切ってまたヴィルの背中に戻った。
「そういえばどっちが決勝に行くんだ?」
ヴィルは俺達に質問を投げ掛ける。
「実は…」
まだ決まってないことと、今まで寝ていたことを伝えようとすると
「勇夜君が決勝に行くよ。私はどちらにせよ負けてたし…」
「ん?…… お、おう… そうか、勇夜が戦うんだな。 まあ無理するなってのも変だし、どうせならあいつの鼻をへし折って勝ってこいよ」
ヴィルは少し動揺しながら此方を向き、喉をならしたあとに言葉を続けた。
"何に驚いたんだ?"そう思ったが、勇夜は他に考えるべき事を優先した。それは、決勝に行くことになるために生じるトールへの対策、そしてアリサが何故直ぐに自分を行かせる事にしたのかだ。
「アリサはそれでいいのか?」
勇夜がアリサに問うと
「うん、私はそうした方がいいと思う…今だからそう思えるの。だから勇夜君に行ってほしい」
何故かという点は解らなかったが、真っ直ぐ見つめてくる視線に納得させられたように感じた。ヴィルは交互に勇夜とアリサを見ながら更に驚いた顔をし、その動きにビックリしたのか背中にいるセリエがビクッとなった。
「まあその…なんだ、勇夜が行くのは決まったんだし、試合まで時間があるから、お前らは軽く食事でも取ってきたらどうだ?」
ヴィルは話をまとめ、提案をしてくる。確かに少し小腹が空いたような気が勇夜はした。それに試合に備えるなら力を出すために食事はした方がいいと思った。
「私は大丈夫だから、勇夜君は行った方がいいよ。肝心な時に力がでなかったらダメだしね」
アリサは遠慮がちに此方へ話してきた。
「そうだな。それじゃあ俺は行くよ。」
部屋を出ようとドアに手を掛ける。
「勇夜! トールに絶対勝たなきゃ駄目だからね! 貴方の意地、見せてきなさい!」
顔の赤くなったセリエが、勇夜に向けて激励をしてきた。その言葉に頷いて部屋を後にする。勇夜が出た後で部屋の中が騒がしくなったが、時間を無駄に出来ないので移動を始めた。
時間が経ち、勇夜とトールを呼ぶ放送がなった。会場へ移動し、自分の位置へ着き待機する。程無くしてトールも到着して勇夜を見てきた。
「やぁ、君が来るとはね。まあ予想はしてたが…思ったよりも元気そうじゃないか、後ろめたさからてっきり棄権するんじゃないかと思ったんだがな」
トールは挑発めいた発言をしてきたが、勇夜は思ったより落ち着いてるようだった。勇夜自身にに託された思い、ソル・ソロンドやセリエ、そしてアリサ…自分自身がトールに勝ちたい気持ちもあり、何時もより集中できていた。
「ふん! 黙りか、まあいいさ結果は誰が見ても明らかさ。君はただ俺の踏み台に成ってくれればいい、俺がより高みへ行くための糧となれ!欠陥」
「よく喋るな… 何時もの余裕がないぞ。それに戦ってもみないで、結果はまだ解らないぞ。俺だって何時までも負けるわけにはいかないんだ」
トールの言葉に対し、勇夜は自分でも驚くくらいスラッと言葉が出た。
「なら、少しでも無様に負けないように…」
そして試合開始の合図が
「せいぜい足掻いて見せるんだな!」
トールの言葉と同時に出された。先に動いたのはトールだ。属性強化を施し勇夜に迫る。その速度は"雷動"を使っていないのか、瞬時に移動はしなかったが、勇夜が間合いに入るとそのまま斬り込む。俺は数度繰り返される攻撃を防御、捌きトールは一旦距離を置いた。
「"雷球"」
トールはその場に球体のような物を作り出し、その場に浮かせた。球体は浮いたまま動かずに留まっていた。トールが意味のないことをするとは思わないと勇夜はそう考え次の動きを予想するが、トールは再び勇夜に突撃してきた。先程と同じように数度攻撃され、また距離を取る。そしてまた突撃をしてきた。これが三度目だ。そしてトールの速度は徐々に上がっていくように感じていた。そして勇夜は何かは解らないがこのままではいけないと感じ、同様に攻めてくるトールに対してカウンターを合わせようと、迫る斬擊を左手の手甲で流し、右手で腹部目掛け打撃を見舞おうとする。しかしその思考を読んでいたかのように、態勢を崩しながらもトールは左手に雷を纏わせ、勇夜の攻撃に合わせてぶつけてくる。その反動で、互いに少し後方へ弾かれる。
「"雷槍!"」
トールは後方へ流されながらも勇夜に向けて攻撃を放つ。その魔力を吸収し、トールへ視線を向けるが先程居たところには居なかった。背筋に嫌な気配を感じ、瞬時に姿勢を低くしながら後方へ勇夜は結界を張った。視線を向けると結界が割れるのと同時にトールの剣が少し弾かれた状態で、すぐ近くにトールがいた。低い姿勢からトールの頭部へ左足の後ろ回し蹴りを喰らわせる。直撃はしなかったが、トールの態勢が崩れる。
"掌底煌波"
右手で技を発動させ、トールへ攻撃する。咄嗟に防御したようだが直撃し、大きく後方へ吹き飛んだ。致命的ではなくともダメージは確実に入った手応えがあった。
「……さすがにあれでは決められないか…だがこれまでだ」
その瞬間に全身の毛が逆立つような悪寒が走り、周囲を見ると勇夜を中心にトールが出した球体が、囲うように三ヶ所に存在していた。
「気づいたところで遅い! "
球体から雷が伸び中心に伸びてきた。その速度は反応出来るものではなく
「がっ!あ"ぁ"」
勇夜に直撃し、全身を鋭い痛みが走った。だが雷の放出が一瞬だった為に致命的な攻撃にはならなかったようだ。
「やはり難点は継続性か…まあいい、この攻撃は二段構えだ。次で終わらせる」
トールがそういった直後、勇夜を囲んでいた球体が、いつの間にか目の前まで近づいていた。
「っ! ハァ…ハァ」
勇夜の呼吸が荒くなる…体中が痛み、思ったようにも体が動かない。
"結局俺は…弱いまま、また負けるのか…"
勇夜の心は今の現状を見て、諦めかけていた
「"諦めるな! 負けるな! お前は、俺に…俺達に見せてくれるんだろ。どんな努力も無駄にならないと! お前が勝利するところを見せると! 俺と戦ったように最後まで抗え!戦えぇ!"」
観客席から声が上がる。その声が誰のものか…勇夜は小さく笑みを浮かべた。
"そうだ。俺はまだ何も見せれてない。あいつにも、トールにも! そして応援してくれた皆にも…だからまだ…前に進まなきゃ行けないんだ!"
「盛り上がってるところ悪いが、まだ…なんてことはないんだよ! 終わりだ!"
トールの動きと同時に勇夜を囲んでいた球体が激しい雷を放出し、甲高い音を出しながら爆発した。
「ハァっハァっハァ… ちっ! 魔力を使いすぎたか…」
トールはその場に片膝を着き、悪態をついた。魔法の放出した場所は白煙が上がり、視界を遮っていた。徐々に晴れていきその中心の全貌が明らかになる。
勇夜は立っていた。両の手を横に交差し、荒い呼吸を繰り返しながらも結界がまだ残り、立っていた。
「ははっ! どういった手品だ… 俺は全力で魔法を打って直撃した筈だ。何でまだお前は終わっていない?!」
その問いに、誰も答えるものが居なかった。勇夜自身も立っているのが精一杯のようだ。
「くそっ! なら直接俺の剣で終わらせてやる」
トールは立ち上がり、強化をしてない体で勇夜に向かった。そのまま動きのない勇夜に剣を突き刺す。
「っ!!」
勇夜は当たる直前に自身の手甲で防御し、トールの腹部へ打撃を与える。
「ぐぅ!」
勇夜の攻撃が身体強化していない体に直撃し、トールは痛み悶絶する。
「まだだ…まだ俺は戦えるぞ! トール!」
勇夜は顔を上げトールへ叫ぶ。その顔は、本来外傷やダメージをおっても傷を受けないはずの結界内だというのに鼻と口から血が流れていた。今度は勇夜がトールに突撃した。
「はぁぁぁっ!」
そしてトールと勇夜の拳と剣による戦いが始まった。お互いに身体強化をしていないが、激しい攻防が繰り広げられていた。斬れば防御し、打てば避ける。その戦いの中で確かにトールと勇夜は笑っていた。
「ハハっ! まさか貴様とこんな戦いができるとは思わなかった。少なくとも今だけは認めてやる。貴様は強い!お前を倒し俺は高みに行くぞ!如月 勇夜ぁ!!」
「ああ、今だけは俺も感謝するよ。お前が認めてくれたこと…だがらそんなお前を越えて、俺が勝つ!!」
2人意思が互いを高め、徐々に動きの鋭さが増す。片や魔力が尽きかけているのにも関わらず体に雷が走り始め、片や内も外も限界にも関わらずその腕には炎と雷が纏われていた。
「「ハァぁぁぁぁぁ!!」」
2人は同時に数歩下がり、そして決着の一撃を同時に相手へ斬る、そして打ち込んだ。
そしてまず1人の結界が壊れ、コンマ違いで2人目の結界が壊れる。どちらが勝ったのか…両者はその結果を聞く前に倒れ込んだ。トールは魔力が枯渇し、勇夜はその体に掛かった負担から意識を失っていた。
観客席はどちらが勝ったのか、試合を覗き込むように前のめりになっていた。
そして………
「"両者意識不明の為、試合終了! 勝者は、僅差で結界が崩壊した。如月 勇夜 とする!! "」
割れんばかりの歓声が湧き、両者を称える声が生まれていた。しかしその歓声も2人には届か無かった。2人は左手と右手が重なるように倒れ、まるで握手しているように見えていた。
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