第16話-1 過去を知るは 間違いと後悔ばかりで


「君は先程の試合どう見た?」


「へぇ、まさか貴方が興味を示すとは珍しいですね。 恐らく試合の結果や内容についてではないと思いますので、彼、如月 勇夜君についてでしょうか?」


「やはり気づいたか、内容だけに気づいた者は僅かなようだが」


「では興味を引かれたのはやはり、彼が恐らく魔力で武器を生成した…というところでしょう。であれば、彼は選ばれた者だということですか?」


「あり得ないとは言い切れないが、もしそうであるなら我らに神託があるはずだ。それがない以上私の立場で認めるわけにはいかん」


「神の恵みを受けた人を導く力ですか…」


「ああ、だがなんであれ我ら人族が生き残り、魔族との戦争を終わらせるためには力がいる。その為の選別候補… 今はその認識だけでいい」

関係者席の中でも、ごく一部しか居られない場所で静かに会話がなされる。その真意はまだ解らない。


ーーーーーーーーーーーーー


"それでは第二試合の準備が整いましたので、選手両名は開始位置まで移動をお願いします"


「ふーん、大分苛ついてるみたいね。そんなに勇夜のこと気になってるの?」


「要らない口を開かないでくれるかな。これ以上機嫌を悪くさせて、君を一瞬でうっかり倒してしまうかもしれないよ」

セリエが、トールの様子から少し挑発的に話し始める。


「いつまでも私の上に居れると思わないでよね。 それにあんな剣技見せられたら嫌でも熱くなるでしょ。どんな状況で起きたのか知らないけど、それでも今回勝つのは私だよ!」

トールはセリエの言葉に反応せずに、開始位置へ着いた。その顔は何時も見せる余裕の表情ではなく、力強い真面目な顔つきとなっていた。


ーーーーーーーーーーーーー


~少し前 保険室内~


「勇夜には、もう魔法の影響はないようだ。今は眠ってるだけ、そのうち目が醒めるそうだ。 さて、俺に何か聞きたいことがあるんじゃないか?」

靖耶は勇夜の状態を確認し、ベッドに眠っている見て隣にいるアリサに声を掛けた。


「そう…ですね。 私の精神魔法 夢闇の誘いは、簡単に言うと掛けた相手の心の深層を呼び覚まして、深く意識を落としたり、眠りに近い影響を与えるものです。その中で私が聞いた話では、如月君は自分の剣を使えないと聞きました。でも結果としてあの状況となりました。立ち入ったことかもしれないですが、如月君に何があったんですか?」

アリサの問いに、やはりかという表情を靖耶はした。少し考えた末に


「これは、まだ幼いときに起きた事件…いや俺が起こしてしまったと言っていい忌まわしい罪の話だ」

靖耶はそう言うと静かに語りだす、


「今から八年前、俺達…俺と勇夜、そして勇夜のとても親しかった友人の3人でよく稽古をしていたんだ。当時は父さんや関係者の人達からとても期待される程に才能を誉められていたんだ。ただ、その中でも勇夜は別格だった…」


~八年前 如月家~


「おはよう勇夜~」

早朝まだ日が登り始めた頃に、1人剣術の練習をしていた幼き勇夜に、同じ年の少年が近づいてきた。


「おはよう、どうしたの?こんな時間に来るなんて」


「勇夜がいるだろうなって思って早く来たんだよ。師範がいる前だと話せないから」


「そうなの?」

勇夜は少し困惑したようだが、少年のはなしに耳を傾ける。


「前に約束したこと覚えてるだろ?」


「約束ってあの事?この間僕達で決めた約束」


「そうだ。で、家で見つけた本に男と男の約束で決着を決めるときは決闘だって書いてたんだ。 それも真剣を使った決闘で」


「えぇ、でも僕達まだ真剣の稽古は許されてないし…それにバレたらお父さんに怒られちゃうよ…」


「大丈夫だって、だから今伝えて、明日やろうって言いに来たんだよ。明日師範がいない日じゃん。それにこの時間なら誰も起きてこないしバレないって」


「でもぉ……」

勇夜は少年の言葉に更に困惑し、キョロキョロしていた。


「それに俺達なら絶対上手く出来るって、それとも俺の頼みは聞けないのかよ」


「そうじゃないけど……… うん…わかった。でも絶対バレないようにしてよ。お父さん怒ると怖いから…」

少年は勇夜の肩を叩き、了承してくれたことに笑顔になる。


「じゃあ明日な! 真剣については俺が何とかするから! また後で」

少年ほ手を振り、その場から走って立ち去った。勇夜は1人ポツンと立ち竦んでいた。気付けば明るくなり、家の方から話し声が聞こえ、勇夜は練習で火照った体を冷やす前に家に入っていった。

その日は何事もなく終わり、翌日となった。目が醒めると何時もより寒くそして静かな朝に少し身震いをした。まるでなにかが起こるように… 勇夜は身支度を整え、何時もの場所に行くと既に約束を交わした少年が立っていた。

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